日本発ERPスタートアップのテイラーテクノロジーズが、業務システムの新しい作り方を提案する。会計や人事は既存ERPベンダーの標準プロセスを採用している。その一方で、テイラーは、カスタマイズ可能な販売管理や生産管理などの機能部品(モジュール)をローコード開発基盤で開発し、これらをAPIで組み合わせる仕組みを提案するという。

テイラー 代表取締役/CEOの柴田陽氏
テイラー 代表取締役/最高経営責任者(CEO)の柴田陽氏は「システム開発を民主化したい」との思いから、2021年にテイラーを立ち上げた。マッキンゼー・アンド・カンパニーで戦略コンサルティングを担当するなどした後、店舗集客サービスやタクシー配車アプリなどを開発するウェブサービス会社を起業。テイラーは5社目の起業になるが、柴田氏は「最後の起業にする」とローコード開発基盤の大きな成長を期待する。
ローコード開発基盤を開発した理由は幾つかある。1つは、伝統的な業務システムの開発にはエンジニアが必要不可欠なため、どうしても優秀なエンジニアの採用から始める。しかし、そのリソースは限られているため、システムインテグレーター(SIer)に要件定義から依頼する。そして出来上がったものを「ああだ」「こうだ」と言いながら、想定していたものに時間とコストをかけて仕上げていく。それでも十分に満足できる業務システムになるとは限らない。最近は「ERPがデジタル変革(DX)のボトルネックにもなっている」と柴田氏は指摘する。
そうした中、会計や人事などを手掛けるERPベンダーはカスタマイズせずに、提供する標準プロセス機能を活用するFit to Standardを提案し始めている。アドオン開発をすればコストがかかり、メンテナンスも大変になるからだろう。しかし、会計や人事は標準プロセスに合わせることができるが、販売管理や生産管理などは競争力を失うことになりかねない。柴田氏は「会計でも売掛金の消し込みは『Excel』を使っている企業もある」と指摘し、「全てを(既存ERPが)担うのは現実的ではない」とする。つまり、業務を一番理解している現場が自ら業務システムを作れるようにする必要があるということ。
そこで、柴田氏は2019年ごろから「かゆいところに手が届く」業務システムを構築できるローコード開発基盤の開発に取り組み始めた。具体的には、“モダンなIT環境”に対応できる「Headless ERP」という考え方を取り入れて、開発基盤で機能部品を開発し、それらをAPIで組み合わせて業務システムを作り上げていく仕組みにする。つまり、領域によって使い分けるということだ。
標準化しやすい領域はSaaSやパッケージソフトを採用し、当てはまらないところはPaaS(Platform as a Service)を使って開発する。そのために、テイラーはAPIベースのERPを高速に開発できるプラットフォームにしたという。同氏は「こうした製品コンセプトがグローバルに評価され、米国の著名スタートアップ育成プログラムのY Combinatorから採択された」と自負する。開発をリードするのは、テイラーの共同創業者で最高技術責任者(CTO)を務める高橋三徳氏だ。楽天やグリー、Speee、スポットライト、メルカリなどで技術を担当してきたエンジニアだ。
柴田氏や高橋氏は、誰もがローコード開発基盤を使って、業務システムを開発できるようにすることを理想にするが、今の段階ではそこに至っていないという。そこで、日本企業向けに要件定義から実装までを支援するプロフェッショナルサービスを用意した。業務システムを内製化している日本企業は少なく、内製化していても業務システムにリソースを回せる人材は少ないこともある。現在(2025年4月初旬)、約50人のサポートエンジニアを配置しているという。
今後の展開は、販売管理と生産管理を中心に検証済みの機能部品の品ぞろえを図ること。もう1つは、カスタマイズや実装にAIを活用すること。例えば、食品会社が賞味期限の機能を追加したいとなったら、自然言語で開発できるようにする。これは、エンジニアがいなくても、エンドユーザーの指示に従ってAIが加工から実装までを請け負うということ。とはいえ、今のローコード開発基盤はエンジニアが使える段階であるため、エンドユーザーによるAI活用のユースケースをどのようにそろえていくかが重要になる。
ローコード開発基盤のターゲットは、「SAP S/4HANA」などクラウドERPへ移行する大手約3000社になる。スクラッチ開発した20年前のレガシーシステムをモダナイゼーションする企業もあるという。目下のところ、日本のユーザーを数社獲得したところで、「2025年は米国で実績を積む」とし、米シリコンバレーに住む柴田氏は1年のうち米国に約10カ月、日本に約2カ月滞在し、顧客開拓に当たる。
ERPはアプリケーションの中で最も大きな市場でもある。その作り方が大きく変われば、SI業界のビジネスにも大きなインパクトを与えるのは間違いない。40歳になる柴田氏が次にどんな策を打ち出すのか、注視する必要がある。

- 田中 克己
- IT産業ジャーナリスト
- 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。