本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、富士通 SVP AI戦略・ビジネス開発本部長の岡田英人氏と、Akamai Technologies エグゼクティブバイスプレジデント CTOのRobert Blumofe氏の「明言」を紹介する。
「今回の発表は当社にとって新しい取り組みだ」
(富士通 SVP AI戦略・ビジネス開発本部長の岡田英人氏)

富士通 SVP AI戦略・ビジネス開発本部長の岡田英人氏
富士通の岡田氏は、同社および食品加工装置を製造販売するイシダテック、イシダテックからカーブアウトしたスタートアップのソノファイ、および東海大学によって共同開発した冷凍ビンチョウマグロの脂乗りを判定するAIを搭載した自動検査装置「ソノファイT-01」を、ソノファイが水産加工業や漁業協同組合など向けに6月から国内で販売し、順次グローバルにも展開していくことを発表した会見で、上記のように述べた。このビジネス形態について岡田氏が「当社にとって新しい取り組み」と表現したのが印象的だったので、明言として取り上げた。

新装置の前に立つ(左から)富士通の岡田氏、イシダテック代表取締役社長 兼 ソノファイ代表取締役社長の石田尚氏、東海大学 海洋学部 水産学科 教授の後藤慶一氏
新装置は、富士通のAIサービス「Fujitsu Kozuchi」のコア技術として開発した超音波解析AI技術を活用することで、非破壊でAIによる冷凍ビンチョウマグロの脂乗り判定を実現し、目視検査に頼ることなく自動で、より高精度な脂乗り判定を行うことができる。また、従来の脂乗り判定から最大80%の省力化や作業効率化を実現。これにより、冷凍ビンチョウマグロの全数検査が可能となり、「ビントロ」と呼ばれる脂の乗った高付加価値商品の流通量の増加に貢献できるようになったという(図1)。

(図1)「ソノファイT-01」の効果(出典:ソノファイの会見資料)
会見では、新装置の開発の背景として、次のような説明があった。
「近年の日本食ブームを背景に、マグロ類の世界的な需要拡大に伴い、これまで生食が主流ではなかったビンチョウマグロも、年間を通して安価で安定して入手できることから、脂が乗った個体を中心に外食産業での需要が高まっている。ただ、ビンチョウマグロの脂乗りを確認する作業は従来、職人の目視に頼っていた。これは、冷凍されたマグロの尾の部分を切り出し、解凍して脂乗りを確認する『尾切り選別』という工程で、多くの人手と時間がかかる。しかし、作業者によって判定にばらつきが生じていたり、熟練した職人が不足していたりすることから、水産商社や加工業者が、安価なビンチョウマグロを全数、正確に尾切り選別することは極めて困難だった。そのため、ビントロと呼ばれる脂の乗った高付加価値のビンチョウマグロを、適正な価格で市場に流通させることが難しい状況だった」
そこで、こうした課題を解決するため、マグロのおいしさ研究に知見を持つ東海大学と超音波解析AI技術を開発した富士通が2022年4月より共同研究を行い、2023年12月にビンチョウマグロを対象に検証を行ったところ、尾切り選別以上の正解率で脂乗り判定に成功した。また、この研究成果の商用化を目指して、イシダテックが自動検査装置のハードウェアの開発を行い、ソノファイが富士通から実施許諾および技術供与を受けた超音波解析AI技術を新装置に実装した形となった。
では、こうしたプロセスが富士通にとって新しい取り組みとはどういうことか。岡田氏は図2を示しながら、次のように説明した。

(図2)研究からのオープンイノベーション活動(出典:富士通の会見資料)
「当社は従来、自社で研究開発した技術は、自社で製品化して事業化してきた。しかし今回は、研究段階から外部アカデミアと共同で行い、そのライセンスを外部スタートアップに供与して製品化してもらい、事業を推進するという『オープンイノベーション』の活動スタイルが実現した。これは当社にとってまさしく新たな取り組みで、グローバルテクノロジーカンパニーとしての活動の幅を大きく広げられる可能性を示したものだ」
ちなみに、岡田氏は富士通でシステムエンジニアから研究所や米国シリコンバレーの事業拠点にも籍を置いたことがあるユニークなキャリアの持ち主だ。そしてこの4月から現職で、いわば同社のAI事業の“顔”となった。その発信力に注目したい。