これまで人間がやってきた業務を代行する「AIエージェント」が、ITベンダー各社から続々と提供されている。ただ、マルチベンダーのさまざまな業務ツールを利用するユーザー企業にとって今後求められるのは、マルチベンダーのAIエージェントを連携し協調させて、業務全体の生産性を上げることだ。その基本となる連携技術がここにきて登場してきた中、筆者が注目するのはこの分野でのシステムインテグレーター(以下、SIer)の役割だ。そこで、このほどAIエージェントに関連するサービスを提供開始した伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)に取材する機会を得たので、マルチベンダーのAIエージェントの連携・協調およびそれを踏まえた企業のAIエージェント活用の在り方、そしてSIerの役割を聞いてみた。
A2AプロトコルやMCPがデファクトになり得るか

CTC AI・先端技術部長の藤澤好民氏
CTCは先頃、複数のAIエージェントが互いに交渉し協調し合いながら複雑な業務を実行するマルチAIエージェントに対応した構築支援サービスを提供開始した。顧客の課題に応じて複数のAIエージェントを作成し、業務の効率化につなげることができるという。このサービスの内容については発表資料をご覧いただくとして、筆者はこのサービスに関連して3つの疑問を投げかけてみた。取材に応じてくれたのは、同社 AI・先端技術部長の藤澤好民氏と同部主任の岸部工平氏だ。
疑問の1つ目は、マルチベンダーのAIエージェントを連携し協調させていく上で必要なことは何かだ。連携については、ここにきてGoogle Cloudの「Agent2Agent」(以下、A2A)プロトコルおよびAnthropicの「Model Context Protocol」(以下、MCP)といった技術が登場してきた。A2Aは異なるAIエージェント同士を連携でき、MCPはAIエージェントをさまざまな業務アプリケーションと連携させることができるプロトコルで、両者は補完関係にあるとみられる。これらは連携技術としてデファクトスタンダードになっていくのか。また、これらのほかに技術面あるいはビジネス面で必要になってくることは何か。

CTC AI・先端技術部主任の岸部工平氏
まず、A2AやMCPがデファクトスタンダードになり得るかについては、「いずれもそうなる可能性はある。MCPについてはこれまでその都度コードを書かなければならなかった手間を省けるので、賛同して採用するベンダーが広がっている。A2Aも多くのベンダーが賛同しているが、マルチベンダーのAIエージェントを連携し協調させる需要が実際にどれだけ広がっていくかが気になるところだ。実用的なものにするためには結構高度な技術が要求され、コストパフォーマンスの観点からもしっかりと見ていく必要があるだろう」(岸部氏)との見方を示した。
また、マルチベンダーのAIエージェントを連携し協調させていく上で、A2AやMCPのほかに技術面あるいはビジネス面で必要になってくることについては、「プロトコルはお互いに情報をやりとりするための作法なので、その作法に従ってどれだけ情報を開示するかはベンダー各社によって異なる可能性がある。業務アプリケーションではAPIによってそうしたやりとりが行われているが、AIエージェント間でも同様の利用環境が実現するかどうかが注目点だ。また、マルチベンダーのAIエージェントを連携し協調させていくとなると、ベンダーによって異なるAIエージェントの課金の仕組みをどう整備していくかも課題になるだろう。さまざまな思惑もあり、むしろ技術よりこちらのビジネス面のほうが大きな問題になるかもしれない」(岸部氏)と述べた。