NTTとNTTデータグループ(NTTデータG)は5月8日、記者会見を開き、NTTがNTTデータGを完全子会社化すると正式発表した。会見でNTT 代表取締役社長 社長執行役員の島田明氏は、世界的に需要が高まるAIやデータセンターなどのグローバルビジネスをよりアジャイルに展開していく必要があるなどと完全子会社化の狙いを説明した。

完全子会社化を正式発表したNTT 代表取締役社長 社長執行役員の島田明氏(左)とNTTデータグループ 代表取締役社長の佐々木裕氏
完全子会社化では、NTTが5月9日~6月19日にNTTデータG株式の公開買い付けを1株当たり4000円で実施し、NTT未保有分のNTTデータG発行済み株式の約42%に相当する5億9281万968株を総額2兆3000億円超で買い付ける。資金は国内金融機関5社からのブリッジローンで調達し、調達後に順次長期資金に切替える予定。NTTデータGの全株式を取得できなかった場合は、別途完全子会社化の手続きを実施する予定だとした。
会見で島田氏は、2023年5月に公表したNTTグループの中期経営戦略の中で、「社会・産業のDX/データ利活用の強化」「データセンターの拡張・高度化」を位置付けているとし、これらの海外事業を展開するNTT DATA Inc.を傘下に持つNTTデータG自体がNTTグループの成長の原動力になると説明。完全子会社化により、グローバルビジネスでのより機動的な成長投資と事業ポートフォリオの強化が可能になるとした。
また、完全子会社化とする背景には、(1)NTTおよびNTTデータGの親子上場による利益相反、(2)複雑な株主構成などによる意思決定スピードの遅さ、(3)経営資源投下に伴う双方株主への説明責任――があったとしている。
NTTグループの海外事業をめぐっては、2022年に当時のNTTデータの事業再編で持ち株会社のNTTデータG、国内事業会社のNTTデータ、海外事業会社のNTT DATA Inc.となり、NTT DATA Inc.にはNTTが45%、NTTデータGが55%を出資。さらに、海外データセンター事業のNTT Global Data CentersではNTTが50%、NTT都市開発が20%、NTTコミュニケーションズが10%の出資構成となっている。
折しも2022年後半に米OpenAIが「ChatGPT」サービスの一般提供を開始して以降、AIや生成AI、AIエージェントに対する法人ニーズが世界的に急拡大し、その開発や提供を担うデータセンターニーズも急速に高まっている状況にある。
会見後の質疑応答で島田氏は、2022年時点でのNTTデータの再編施策は適切な判断だったとしつつも、その急激な市場環境の変化を受けて、上述の背景などが重要課題として顕在化していったと説明。NTTグループとしての成長機会を海外市場に見いだす中で、海外の法人顧客に対応しているNTT DATA Inc.を含むNTTデータGを完全子会社化する必要性が出てきたとし、「NTTデータGが(海外事業の)真っ正面に立ってもらう必要があった。先々のポートフォリオを見てもNTTデータGの事業領域は成長分野として大きな期待がある。人・モノ・金といったリソースを含むさらなる投資により成長していく上で、(複雑な資本関係などに起因する)意思決定のスピードをさらに高めるべく完全子会社化という判断になった」と述べた。
NTTデータG 代表取締役社長の佐々木裕氏は、グループ全体で36期連続の増収を達成し、NTT DATA, Inc.などの海外事業においてはITサービスで世界8位、データセンターサービスで同3位にあると強調。経営戦略で掲げる「Quality Growth」において、「Digital & Experiences」「Next-Gen Infra」「Agentic AI」の3つを注力領域に位置付け、(1)機動的な成長投資によるグローバルソリューションのポートフォリオ強化、(2)NTTグループのリソースおよびケイパビリティーの連携強化、(3)意思決定の迅速化およびコスト競争力の向上――に取り組んでいるなどと説明した。
直近でNTTデータGは、特にAIニーズを踏まえたデータセンタービジネスの拡大を最重要施策としており、そのための投資を強化。ただ、それに伴う財務面に不安が生じ、さらなる買収・合併(M&A)施策なども難しくなっていたといい、佐々木氏は、「ビッグテック(Amazon Web ServicesやMicrosoft、Google Cloud)とのシステム構築案件やOpenAIとの提携などグローバルビジネスが広がる中でスケールメリットを生かせるより強固な財務基盤が必要となった。より大きな船(NTT)に乗ることでそれらが可能になる。また、親子上場の複雑性といった課題を解消するためにも良い機会だった」とした。
両氏によれば、完全子会社化はまずNTT内部で2024年9月に本格的な検討を開始し、同11月にNTTデータGへ正式に打診、同12月から両社で特別委員会を設置し具体的な検討を進めた。社外取締役らへの説明や少数株主への影響の精査などを行いつつ、2025年4月に公開買い付けの条件などを決定。今回の正式発表に至ったとする。
完全子会社化後の展開では、「グローバルソリューション事業のポートフォリオ強化」として北米市場の強化やAI活用サービスの強化、デジタルエンジニアリング強化、AI需要に対応したデータセンターの拡大と高度化を目指す。
次に「両者グループリソース/ケイパビリティーの連携強化」として、大規模法人顧客向けの統合ソリューションの営業強化と拡大、NTTデータグループのソフトウェア資産を活用した自治体および中堅・中小法人顧客への営業強化、次世代通信基盤「IOWN」や生成AI「tsuzumi」などNTTグループの研究開発実績を生かしたAIの社会実装の推進を掲げる。
さらに、「意思決定の迅速化とコスト競争力・顧客体験/従業員体験向上」として、ガバナンスの簡素化および重複機能の整理による意思決定の迅速化とリソースアセットの最適化の実現、AIを最大限活用したソフトウェア開発や法人営業での社内共通業務のグループ横断デジタル変革(DX)の推進を図っていく。
また島田氏は、完全子会社化後にNTTグループ各社の連携強化や重複業務の整理なども実施する考えを表明。具体的には、大規模法人顧客向け営業の最適化でNTTコミュニケーションズ、AI技術領域でNTTテクノクロス、ITサービスを活用したビジネスプロセスアウトソーシングの高度化でNTTマーケティングアクトProCXとNTTネクシア、研究開発でNTT研究所を示した。なお、これらについては組織再編など大がかりなものでなく、あくまで強化や整理による最適化が目的になるという。