メインフレーム時代のWebサービスへの挑戦 - (page 3)

安崎篤郎(日立製作所)
礒辺寛(日立製作所)

2006-01-20 06:22

システムの可視化

 まず気になるのは、約束事が多すぎでエンドユーザーが簡単な学習でプログラミングできるのかという面で懸念である。エンドユーザー言語の要件として4点を上記した。(1)に関してはかなり満足しているように感じるが、(2)と(3)になるとまだまだ不安を感じる。

 例えば複雑な演算能力を必要とする場合はJavaを使い、コンポーネントをつなぎ合せて仕事をする場合はスクリプト言語を使うとか、複数の言語、ツールを習得する必要があるように感じる。

 約束事が多く、たくさんのツールとインタフェースが生じたそもそもの原因は、Webサービスの生い立ちが、ウェブコンテンツの配信に少し工夫をするプログラミングによって、いろいろな使い方ができることが分かったことにあると思われる。メインフレーム当時とは異なり、扱えるコンテンツの種類も格段に増え、まさに誰でも使える対話型システムになってきている。

 HTMLやXMLのシンタクスにJavaや各種スクリプト言語を埋め込み、起動できることで、コンテンツがプログラムとして動作し始めてしまうのである。これはこれで、非常に大きな進歩である。例えば、以下は日立製作所のCosminexusで提供しているポータルフレームワークの例であるが、多様な情報を集約することができている。

 このように、コンテンツが動き始めた時点では、サービスを人が利用するという構図であったが、この構図はさらに、サービスを別のサービスが使い始めるという段階に入ってきている。このため、人が関与していた部分が、サービスを消費する他のサービスに求められるようになり、セキュリティ、プライバシー、ポリシーといった人間社会の縮図のような機能も必要になってきている。まさに、世界中を「つなぐ」環境が、量から質の変化へと踏み出しているわけである。

 このニーズが、容易に多くのセマンティックスを持つことのできるXML仕様や、スクリプト言語を生み出す牽引力にもなってきている。さながら、XMLスキーマのシンタクスと、タイプ記述に自然言語によるセマンティクスを付加したプログラムのように見えるのは筆者だけではないと思う。筆者が目にしただけでも、このようなWebサービス仕様は、すぐに以下のようなリストになる。

 メインフレームの時代から、コンピュータは最近で言うところの「仮想化」によって、インタフェース部分を最小集合にして成長してきていると言える。メインフレームの場合、プログラミング言語が「つなぐ」ための最小集合であり、コンピュータへのニーズを集約するという点で、その要件を満たしてきた。もちろん、唯一の言語にはならず、いくつかの言語が共存してきたわけだが、一つの言語の中で、ハードウェアから始まる、下位の階層、リソースを完全に隠蔽しようとしてきた。

 また、単に記述力、表現力以外にも、対話性、デバッグの容易性、繰り返し別のコンピュータにも配備、実行できることなど、運用から見ての要件も解決してきた。

 コンテンツの種類としては限られていたが、APLのような対話型言語は、例えば、システム内にどれだけのプログラム、データが存在しているかを、プログラムから知ることができた。データベースや端末などのリソースもプログラムから知ることができるようにしてきた。

 これは、開発環境、運用管理の第一歩である「システムが可視化されている」という要件を満たしていた。また、障害解析やデバッグという点で、欠かすことのできない要件である。しかも、一つの言語に閉じていたのである。

 Webサービスはその生い立ちから、システム非依存、言語非依存である。従って、インタフェースとしては、言語に変わる次の階層を生もうとしているように思われる。これがサービスであったり、モデルであったりするが、いずれにしても、これまでハードウェアから積み上げてきた「仮想化」の階層を見渡せること、「システムが可視化されている」ことが第一歩と思われる。

 Webサービスにおいても、最終的にはWebサービスの階層で下位の階層を「仮想化」できることが重要である。管理という側面では、「WebサービスによるWebサービスの管理」という方向での標準仕様がOASISのWSDM-TCで開発されている。

 さらに、サービス、モデルのレベルでの記述性、表現力、可読性が向上し、動作するサービス、モデル自体が簡単なプログラミングで動作する能力を実現させることで、ダイナミックに変化していくビジネス環境に対応できるコンピュータ利用がさらに拡大されるだろう。

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