Microsoft主催のイベント「2008 School of the Future World Summit」にて12月3日(米国時間)、独立行政法人 メディア教育開発センター(NIME)理事長で東京工業大学 名誉教授 工学博士の清水康敬氏が、日本の公立学校におけるIT活用の現状と課題について語った。
清水氏によると、日本の公立学校にPCが導入されたのは1985年のことだ。その後、1990年から当時の文部省(現在の文部科学省)がPC環境整備のために予算を割り当て、2011年3月には生徒3.6人あたりに1台のPCを導入することと、同じく2011年3月までに学校内のLAN普及率を100%にするとの目標を定めている。しかし清水氏によると、「この目標は達成できそうになく、PCはせいぜい6人に1台、LANの普及も80%にとどまるだろう」とのことだ。
なぜ教育機関でのIT整備が進まないのか。その理由のひとつとして清水氏は、整備のための予算が地方交付税として各行政地域に支給されるため、その使い方が地域に任されていることを挙げる。「IT整備に積極的な一部の地域ではLAN普及率が100%となっているのに、一部では全くLANが整備されていないという二極化現象が起こっているのもそのためだ」と清水氏は言う。
また、何のためにPCが必要か理解していない学校も多いと清水氏は指摘する。そこで清水氏は、ITを活用した指導が生徒の学力向上につながると証明するためのプロジェクトを実施した。具体的には、全国で1万8500人の生徒を対象とした研究で、生徒をAとBの2つのグループに分け、1時間目はグループAがITを活用した授業を受ける一方でBは通常の授業を受け、2時間目はAとBを逆にするといった方法で効果の違いを測定したのだ。その結果、客観テストと意識調査の両方において、ITを活用した授業の方が学力向上に効果的であるということが証明された。
「例えば小学校の算数の授業では、従来型の授業後の成績が平均76.2点となったのに対し、ITを活用した授業後の成績は平均82.1点となった。その他の科目でも同様にITを活用した方が点数が高く、もし一方のグループのみが半年間ITを活用して授業を受けたとすると、従来型の授業を受けたグループとの学力の差はさらに大きくなるだろう」(清水氏)
生徒に対する意識調査については、楽しく学べたかどうか、理解度はどうだったか、関心は高まったかなどをアンケート形式で質問した結果、ITを活用した授業の方がすべての項目において高い評価を得た。また、教員に対する意識調査でも、ITを活用した授業が活用しない授業に比べて生徒の学力向上につながるかどうかを質問したところ、「たいへんそう思う」が54.6%、「少しそう思う」が42.7%となり、合計97.3%の教員が学力向上を実感したことになる。