(2)個別と連結の“つなぎ役”になる
1)グループ内取引の詳細情報での消去
特に連結決算の業務で効率化したい業務の代表格として、グループ内取引の照合/差異調整業務がある。通常、各社から報告された取引先別/勘定科目別の残高を照合し、相違する金額を各社にフィードバックして調査、修正する手順が必要になっている。ところが、グループ情報の共有ができれば、勘定残高ベースでなく、取引ごとに照合することも可能であり、より効率よく照合業務を遂行することが可能になる。さらに各拠点から、このデータにアクセスすることができれば、親会社が基点になる、この一般的な業務プロセスを見直すことも可能になる
2)会計基準統一のための補正
現在でも日本基準での連結財務諸表を作成するために、米国会計基準や国際会計基準(IFRS)、そのほか各国の基準で作成された子会社の財務諸表を親会社の業務の中で日本基準に修正しているケースが多い。ところが、今後IFRSが適用されることになると、日本基準で運用している国内子会社の修正までが必要になってくる。そこで、このグループデータ共有の基盤を活用して、会計基準間の調整を行うことも有効な活用手段の一つになると思われる。加えて、親会社で修正を行っている場合には子会社へのフィードバックも容易であり、連結経営と個社経営との接点として重要な“つなぎ役”となるはずである
“ERP統一”は一つのやり方
こうした情報共有の基盤をどのように整備するかは、現実問題としてなかなか難易度の高い課題だ。一つの考え方として、グループで統合基幹業務システム(ERP)を統一化する方法が考えられる。世界中の各拠点で同じ仕組みを使うことが実現できれば、それらのデータを共有化し活用することは容易に感じられる。
ところが現実はどうだろうか。同じグループ会社といっても、親会社だけ突出して規模が大きい、あるいは子会社の中には大掛かりなERPを入れるほどの規模でもないなど、その妥当性が疑わしいことも多い。また、特に近年の企業活動ではM&Aが活発に行われており、そうして統合された企業群が同じ仕組みを利用しているわけでもなく、統合するにしても、それなりの時間を要することになるはずである。
そこで、もうひとつの考え方として、さまざまなグループ内で利用しているシステムから、データを受け取りやすい、別のグループ共有の仕組みを持つ方法が考えられる。そうすることで、構成する企業が入れ替わっていく現在の連結経営で、常に最適な経営基盤を提供することが可能ではないかと考えている。
また、この仕組み自体は、連結経営を支援する仕組みであることから、親会社だけが利用できればいいというものではなく、グループ会社も活用できる仕組みでなくてはならない。そのため、容易に想像がつくように、日本語でコミュニケーションし、円貨ベースで測定する「日本」にある「親会社」だけを対象としたものでは、十分には力を発揮できないものとなってしまうだろう。
さらに、このグループ共有の仕組みができると、リスクマネジメントの視点からも活用が広がってくるだろう。ここまでは連結経営の視点から定量的な情報を中心に想定して話を進めているが、そこに定性的な情報や、一般的な経済情報まで含まれてくることで、企業グループとして(チャンスにもなり得る)リスクを的確に捉えながら、企業価値を最大化する連結経営が実現可能となるだろう。
筆者紹介
斎藤和宣(SAITO Kazunobu)
株式会社ディーバビジネスソリューションユニット第2クループ長。公認会計士。1968年生まれ。1992年慶應義塾大学経済学部卒。青山監査法人、プライスウォーターハウスコンサルタント(現IBMビジネスコンサルティングサービス)を経て、2002年ディーバへ入社。大企業の連結経営会計にかかわるコンサルティングや、会計システム導入のプロジェクトマネジメントを多数手がけ、現職にいたる。