SAPPHIRE NOW 2010:企業ITの変遷に対応してきたSAPが目指す「オンプレミス、オンデマンド、オンデバイス」

末岡洋子

2010-05-20 15:50

 独SAPは5月17日から3日間、独フランクフルトと米オーランドの2都市で年次カンファレンス「SAPPHIRE NOW 2010」を開催した。2日目の5月18日は、2月に共同CEOに就任したBill McDermott氏とJim Hagermann Snabe氏の両氏が基調講演を行い、SAPの戦略について語った。メッセージは「オンプレミス、オンデマンド、オンデバイス」。顧客やパートナーを前に、SaaS、リアルタイム、モバイルを取り込むSAPの新しい方向性を示した。

 新しい共同CEO体制では、Snabe氏がドイツ本社で製品ソリューション全体を統括し、McDermott氏は米国で営業分野を統括する。2人のCEOがそれぞれの担当に責任を持ちつつ共同で経営していくというものだが、米Oracleとの競合にあたって米国市場へのフォーカスを強める意味合いもありそうだ。

 今年のSAPPHIREは新体制を象徴し、2カ国で同時開催となった。この日は、新体制がスタートしてちょうど100日目。オーランドからスピーチを行ったMcDermott氏が顧客事例を交えながらSAPの方向性を示した後、フランクフルトのSnabe氏が製品ポートフォリオについて語った。

 McDermott氏はまず、エンタープライズの共通ニーズとして、「リアルタイム」「モバイル」「持続性(サステナビリティ)のあるビジネス」の3つを挙げた。

Bill McDermott氏 Bill McDermott氏

 インターネットの普及、急増するモバイル端末やセンサなどにより、データの量は爆発的に増えつつある。データは現在、18カ月で2倍というペースで増えているという。「これは大きなチャンスだ。これらのデータを情報に変え、洞察を得ることができる」とMcDermott氏は言う。ここでのSAPの回答は、BI、そしてシステムのメモリを利用するインメモリコンピューティング技術だ。後者のインメモリコンピューティングは、データ分析のパフォーマンスを時間単位から秒単位に短縮できるといわれている。

 「市場の流れを変えることができる。SAPはリアルな“リアルタイム”を提供する」(McDermott氏)

 先進的にリアルタイム経営を導入しているのがP&Gだ。年商10億ドル以上のブランドは22を数え、世界180カ国で展開している。P&GのCEOは毎週月曜日、世界に分散するリーダーとバーチャル会議を開き、事業状況を検証する。製品の売り上げなどさまざまな指標を市場セグメント、国、チャネルなど要素別に分析、比較し、リアルタイムで意思決定を行う。価格設定、在庫管理などによりビジネス、さらには全社レベルで最適化を図る。これらを支えるのがSAPの技術だ。McDermott氏は「経営者は顧客や製品などの現場に近くなり、リアルタイムで意思決定ができる。洞察により、企業、文化を変えることができる」と語る。

 2点目の「モバイル」は、McDermott氏によれば「新しいデスクトップ」であるという。スマートフォンブームに沸く先進国のモバイルワーカーだけでなく、PC世代をスキップした新興国での重要性はさらに高い。SAPにとっては、新しい市場にリーチできることになる。McDermott氏は、前出の「リアルタイム」と組み合わせることで、ビジネスアプリケーションの新しいカテゴリを実現すると自信を見せる。

 モバイルの事例としては、スイスの小売チェーン「COOP」を紹介した。約1万3000アイテムを購入できるiPhoneアプリケーションを提供したところ、大人気となった。さらにはこれを在庫管理などと連携させることで、顧客満足度、効率、新しい顧客へのリーチなどのメリットを実現したという。

 モバイルで重要な切り札となるのが、5月12日に買収計画を発表した米Sybaseだ。Sybaseはモバイルプラットフォーム技術を持つ。

 「Sybase買収により、業務ソフトウェアと次世代のBIを、時間を問わずあらゆる端末で利用できる完全なスイートを提供できる唯一のベンダーとなる」(McDermott氏)

 買収後、Sybaseは独立した事業として継続する。2社間で技術を共有することでそれぞれの顧客に価値を提供する。SAP顧客は、モバイルコマース、モバイル決済などの新しいビジネスに拡大でき、Sybase顧客はSAPのインメモリ技術のメリットを享受できる。

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