前回(仮説を見つけるBI、仮説を検証するBI、未来を見通すBI--いろいろな分析ツール)は、ビジネスBIにおける分析のプロセスにおいて重要な役割を果たす「分析ツール」について見てみた。今回は「集団的知性」を引き出せるもしれない、新たなBIの姿について考えてみたい。
沈没位置を見事に予測した「集団の知恵」
米国のコラムニスト、James Surowieckiが著した「The Wisdom of Crowds」(邦訳名:「みんなの意見」は案外正しい、角川書店刊)では、いわゆる集団的知性、集団の知恵に光を当てていた。多様な人々を集めた集団が到達する結論は、1人の専門家の結論に優ることがあることを示し、大きな話題となった。
同書では、集団の知恵の一例として、1968年に北大西洋で消息を絶った米海軍潜水艦スコーピオン号のケースを紹介している。沈没した潜水艦を発見するには、最後の交信位置から30数キロ四方にわたり、深さ数千メートルの海底を捜索しなければならなかったそうだ。
元海軍士官のクレーブンは、スコーピオンで発生した可能性のある複数のシナリオを作成し、数学者や海難事故などの様々な分野の専門家を集めて、シナリオの確度について検証してもらった。
専門家がまとめた個別の意見は、それ単体で潜水艦の位置を特定できるようなものではなかった(沈没原因も速度も角度も知らされていなかったからだ)が、クレーブンはそれらの意見をすべて集約し、確率論の手法を用いて潜水艦の位置を算出し直した。
そこから導き出された結論は、専門家のどの意見とも全く一致しなかったが、5カ月後に発見された潜水艦の沈没位置から200メートルしか離れていなかったという。驚くべきことだ。
Surowieckiは同書で、集団の知恵を生みだせる賢い集団は、意見の「多様性」「独立性」「分散性」「集約性」という4つの要件を満たしていると述べている。
一見して多様性と独立性と分散性の3つはうまく相互作用しそうだ。一方、分散性と集約性について同氏は、分散性が集合的な知恵に結びつくには集約のメカニズムが必要だとして、次のように述べている。
「いちばん望ましいのは個人が専門性を通してローカルな知識を手に入れて、システム全体として得られる情報の総量を増やしながら、個人が持つローカルな知識と私的情報を集約して集団全体に組み込めるようになっている状態だ」