日本企業の強みを忘れたIT部門の課題(後編)
(編集部より:日本企業のIT部門を抱える課題を巡る“部長”との会話はいよいよ、その本質的実態を浮かび上がらせます。合わせて前編と中編もどうぞ)
人材がいない、育てる仕組みになっていない
「うぅん……なんか重たい話ばっかりで、ちょっと混乱してきた」
「そうですよね。最後に今日のポイントを簡単にまとめさせてください。
- 日本企業のIT組織の多くは、海外のトップ企業と違い、事業の成長戦略を後押しできていない
- 第一に、新しいことにお金を配分できるようになっていないから
- 次に、新しいことをするにも現行の仕組みが重くて古臭く、変えにくいから
- そして、それをやるための人もいないし、育てる仕組みになっていないから
ってことを今まで言ってきました」
「なんだぁ…最初からそう言ってよ。ホント話ながいなぁ。でも、端的に言うと、そういうことになるんだと思うなぁ」
「ま、許してください。でも、そろそろお時間ですよね。じゃあ次回は、こういう状況踏まえてどうしていくか? そのあたりの話をさせて頂こうと思うんですけど、よろしいですか」
「そりゃもう、是非。でも次回は手短にね」
IT部門は日本企業の強みを忘れていないか?
日本企業の強みは中長期的な視野に立った経営にあると思っている方はまだまだ多いと思う。しかし、誤解を恐れずに言えば、ことITにかけては、そのことは当たらないのではないかと筆者は思っている。
短期的な成果(トータルコストの帳尻合わせや短期的なユーザーニーズの充足など)の追求に汲々とし、長期的な成果(グローバル経営で必要なITやホワイトカラーのパフォーマンス向上に必要なITの研究と実装など)を視野に入れながら、一つひとつ進化を続けることは既にできなくなってしまった。こういった日本企業のIT部門が抱えている問題は、要約すると以下の通りだ。
(1)今の状態では中長期の展望は全く立たない
今後、経営は成長戦略を描こうとするが、その中で必要となるITの姿はボンヤリとしか分からない。少なくとも、今のままではできないということは、確信としてわかっている。
(2)新しいことに取り組んでいない
IT部門は、製造業における生産技術部門と同様に、企業のプロセスを担う重要な「プロセス技術部門」であるとも言える。技術部門である以上、イノベーションは不可欠であるが、イノベーションができていない。すなわち、そのノウハウも人材も準備ができていない。
(3)変化に耐えられないし進化に遅れている
現在の情報システムは、事業の変化、すなわち、製品の変化や顧客の変化、M&Aへの対応、取引先の変化、それに伴う経営の情報ニーズの変化、経営スタッフの情報ニーズの変化に対応するには、高いコストと長い時間がかかるという、現代の経営の常識では考えられない情報システムの構造になってしまっている。
(4)人は育てられないし育っていない
こういった状況をなんとかしようという意識はあり、人材育成に着目している。ITが技術部門である以上、専門的な育成や処遇が必要なことは薄々理解しながらも、世に言われている標準をなんとか導入したが、効果の実感が得られず、「なんとかしないとけない」と嘆いている状況である。
こういった状況は、企業に例えるならば、つぶれかかっているといってもいい。なぜ、そうなったのか? 筆者は次の要因が複合的に絡み合っているのだと考えている。