「昔『IT Doesn't Matter』の議論も流行りましたが、こういうところに過剰にお金をかけるのは良くないと言っていましたね。電気代が高いと、普通怒りますよね。ただし、ケチりすぎるといきなり危機に陥ってしまう。ですから、ここに入るInfrastructureは、自社の業容と、無くなった場合のリスクに基づいて効率的な調達を図っていくべきものです」
「ERPもそうかな?」
「そう捉えるべきだと思っています。ERPで業務改革ができたかどうかの総括と、本来的なERPの役割を混同してはいけない。そもそも、伝票と台帳と帳票の組み合わせなんですから、伝票管理や帳票作成の省力化以上の改革はできないんです。また、情報活用は経営者が情報を欲しいと思わないと、必要ないんです。そこは、先ほども言ったように、ITに対する構想力次第です」
「んん」
「いずれにしても、これらは企業にとってお客様への約束――作ったものを届けたり――を果たし、株主や当局への約束――業績などを正しく報告――を果たすためのライフラインです。原則、各社によって異なるものではありません。こういうところで工夫をすること自体は、それを自社の強みと置く企業以外には、本来的に意味がないものです」
「う~ん」
「日本企業は、ここに独自の強みがあると思いすぎている。部長の会社も、業務で強みがあるわけではなく、商品力の方が強いですよね。こういう領域はコモディティに近いものを作っている企業に多いのであって、そうではない企業にとっては、同じで構わないものであり、できるだけ標準になっている方が、お客様のためだし、従業員のためでしょうし、経営者のためです」
「でも、さっきの論調とちょっと違わない?」
「あぁ、複雑化したビジネスへの対応ですね。それは、その通りです。ERPをパッケージとして捉える場合、ここ自体は標準で構いません。複雑なビジネスへの対応をするには、それは自社なりのやり方を作るということでしょう。これは、複雑なビジネスを選択するという“独自”な選択ですから、その独自な選択をできるような周辺を造るという意味だと思っています」
「次は?」
「Equipmentですね。これは“装備”です。装備ですから、若干軍事的な匂いもしますね。ですから、ここに該当するようなものは“前線で勝利”しなければならないものです。製販調整のやり方、営業や顧客サービスの仕方、社内の人材活用の仕方などは、独自のものがあってしかるべきです。一般的に言われているセブン-イレブンのビジネス手法などは、こういった装備を突き詰めていった結果なんでしょうね。もっとも、独自の勝てるやり方がなければ、他人を真似るということがあってもいいと思います。むしろ、効率的な2番手戦略ですよね。イメージとすると、アメリカは最先端の武器を必死で開発しています。でも、同盟国はそれを売ってもらうことで十分、防衛能力を維持していますよね。これは、これで非常に賢いやり方だと思います」
「うん。そうだね。ウチなんかは、本当はこういう領域こそ、力を入れるべきなんだよねぇ…」
「そうですね。僕は、個人的には、この“装備”を進化させることは、日本人の職人気質にも合っているとも思っています。まず、他人を真似して、真似られるようになったら、独自の境地を切り開いていけばいいのですから」
「それで、最後がBusiness Platformか」
「ここもEquipmentと同様だと思っています。ここも“勝利”を目指すべきところです。でも、自分が勝っている状態であれば、それを追求すればいいんですが、負けていたり、自分たちが新しくやるようなことならば、他者を真似るというやり方もありですね」
「なんとなくはわかっていたんだけど、今ひとつ明快に考えていなかったよね、こういうのは」
「そうなんです。なんとなく、こういう切り分けは多くの上層部の方は持っているんですが、なかなかそうは言い切れないところが多い」
「そうだね。それをウチも切り分けて、投資やヒトの配分をしていかんといかんね」
(編集部より:「ITとは何か?」という問いの答えとして出てきたのが、「ITをどのように位置付けるか」という“構想力”です。では、どんな風にITを位置付けるべきなのか…。後編は5月26日に掲載予定です)
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宮本認(みやもとみとむ)
ガートナー ジャパン株式会社
コンサルティング部門マネージング・パートナー
大手外資系コンサルティングファーム、大手SIerを経て現職。16業種のNo.1/No.2企業に対するコンサルティング実績を持つ。ソリューションプロバイダの事業戦略、組織戦略、ソリューション開発戦略、営業戦略を担当。また、金融、流通業、製造業を中心にIT戦略、EA構築、プロジェクト管理力向上、アウトソーシング戦略プロジェクトの経験も多数持つ。
編集:田中好伸
Twitterアカウント:@tanakayoshinobu
青森生まれ。学生時代から出版に携わり、入社前は大手ビジネス誌で編集者を務めていた。2005年に現在の朝日インタラクティブに入社し、ユーザー事例、IFRS(国際会計基準)、セキュリティなどを担当。現在は、データウェアハウス、クラウド関連技術に関心がある。社内では“編集部一の職人”としての顔も。