“ソーシャルアグリゲーション”で破綻するアイデンティティ

飯田哲夫 (電通国際情報サービス) 2011年07月26日 08時00分

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 Facebookのユーザー数が増え続ける一方、Google+の報道も過熱して、これからのコミュニケーションプラットフォームへの期待は最高潮に達している。一方で、SNSがFBIの捜査に使われたり、金融業者によって借入人への督促に使われたりと、ネガティブなニュースも出始めている。

 かくいう私はといえば、SNSを通じたソーシャルグラフは、一時ほどの勢いはないもののじわじわと拡大を続け、Facebookは毎日使うコミュニケーションツールとして定着している。そのソーシャルグラフは、親しい友人や知人、会社の同僚、そして知り合いへとお手本のように同心円を描きながら拡がっている。

 その過程においては、長く接点が絶たれていた人たちと再会したり、仕事上での固いコミュニケーションしかなかった人とのゆるいコミュニケーションが成立したりと、単なるコミュニケーションプラットフォームを超える意外性に面白さを感じてきた。

 しかしながら、なんとなく最近、そこに妙な居心地の悪さも同居するようになりつつある。

SNSで起きるソーシャルアグリゲーション

 SNS上では、パブリックとプライベート、過去と現在、会社と家庭、趣味と仕事、母国語と外国語など、個々人が持つ多面的な社会的役割が混じり合う。それをここでは“ソーシャルアグリゲーション”と呼ぶこととしたい。人によっては、ソーシャルアグリゲーションが起きないように、Facebookでは、友人のみしか友達承認しないポリシーの人や、外国人とのコミュニケーションにしか使っていないという人もいる。

 一方で、SNS上で様々な人へとソーシャルグラフを伸ばしながら、改めて自分の持つ多面性を一つ一つ確認していくことも面白く、自分のように無策にソーシャルグラフを可視化していく人も多いと思う。ある側面だけを見せることも何となく自己のアイデンティティを否定しているようだし、しかもこれが外部からの友達承認依頼としてやってくるのだから否定するのも容易ではない。また、これまで自分の中では分断されていたものや人が繋がっていくことは、新しい発想や発見に繋がり、自分を一歩先へ進めてくれるものでもある。

ソーシャルグラフの拡大が行き着く先

 こうしたソーシャルグラフの拡大は、マーケティングの観点からすれば非常に強力なツールと捉えられる。一斉に同じメッセージを伝えるマスメディアに対し、ソーシャルグラフを通じた「知っている人からのメッセージ」はより信頼性が高いものと認識され、強い購買行動へ結びつくと言われている。そのため、マーケティング観点からは、ソーシャルメディアを活用していかに細分化されたセグメントへ到達するかが盛んに議論される。

 マーケッターは、特定の趣味嗜好を持つ人を辿る一つのルートへ情報を流すことに専念すれば良い一方、情報の受け手側は多面的で社会的な役割を演じている以上、一人の人の上で様々なルートが交差することとなる。それは、SNS上で個々人のレベルでソーシャルアグリゲーションが起きているのだから当然である。

 しかし、ソーシャルアグリゲーションが一定のところまで進んだ時、自分が一体何者であるのか良くわからなくなる瞬間が訪れる。それは、ソーシャルグラフが拡大し過ぎて、心地よかったタイムラインが、自分には関心の無いもので徐々に満ち始め、自分が何かをシェアしようと思ったとき、それを誰とシェアしているのか判らなくなってきたときである。本当は自分にとって心地良いネットワークを作っていたはずが、気付いたら見知らぬ世界に迷い込んでしまったような感じである。

 とはいえ、コミュニケーションのプラットフォームと化したソーシャルネットワークから自己を消し去ることは、自分の社会的役割がアグリゲーションされていくことよりも恐ろしい。この過渡的な心理状態から次にどう移行していくのかを見ていくことにも面白さを感じる。

それでも続くソーシャルネットワーク

 最近、米国ではFacebookのユーザー数が減少に転じたというニュースがある。ひょっとすると、自分が経験しているのは、ソーシャルネットワークが拡大する過程で誰もが経験する一つのプロセスなのかなと思わせる。つまり、ソーシャルグラフをどんどん広げて、一定のところまで来たところで本来の心地よさに回帰すべく再度絞るわけである。

 でも、そんなタイミングでGoogle+が出てきたのは面白い。なぜなら、もう一回、心地よいネットワークの作り直しが出来るからである。Google+では、「サークル機能」を使うことで、情報を共有するコミュニティを分けることが出来るという。つまり、アグリゲーションされてしまった自己のアイデンティティを再度分解してくれるわけだ。

 さて、どちらへ向かうのかは、使う我々がどちらを選ぶか次第であるが、SNSがコミュニケーションのプラットフォームとして定着していくことは間違いないだろう。ただし、それは単に何かを置き換えるものではなく、ソーシャルアグリゲーションに見られるように、これまでに無い何かをもたらすものであり、予測の出来なかった新しい心理的変容や社会的影響を伴うものである。

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飯田哲夫(Tetsuo Iida)

電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。

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