「グレーゾーンを攻めろ」とは
ある米系ベンチャー企業での話。新しい事業を始めるに当たってのポリシーは「グレーゾーンを攻めろ」であるという。つまり、法的枠組みや既存の業界慣行に照らして、その新規事業が明らかに違法である場合を除けば、基本的にGoということだ。もちろん、その事業内容が、予見される障害を乗り越えるだけの価値がある場合に限ってだが。
例えば金融サービスの領域において、日本の貸金業法は事業体が貸し出すことを想定しているが、ソーシャルレンディングのように個人が個人へ貸し出すことは想定していない。つまり、インターネットによってソーシャルサービスが可能となっても、法規制はそれを前提には作られていないから、どうしても既存の枠組みにはフィットせず、絶対駄目ということではないが、やっていいのか悪いのかグレーな部分が残る。
その時、保守的な事業体であれば、敢えて既存の枠組みに抵触する可能性のある事業には手を出さないが、「グレーゾーンを攻める」ポリシーの事業体であれば、既存の枠組みを乗り越える方策を練ってチャレンジするという判断になる。事実、日本においてもソーシャルレンディングのビジネスは、既存の枠組みをうまく工夫することで事業が立ち上がりつつある。
既存の枠組みを超える発想力
今の日本の社会、現状の延長に未来が描けないとすれば、既存の枠組みを超える発想力が求められる。これは国家のレベルにおいても企業のレベルにおいても同様である。
一方、我々は何か新しい事業を始めようとすると、組織内から優秀な人材を集めて来て、「さぁ考えろ」という話になることが多い。しかし、既存の枠組みの中で新しい事業を考える場合と、既存の枠組みを超えて新しい事業を考える場合では、そこで求められる資質は大いに異なる。
既存の枠組みの中で新しい事業を考える場合には、きちんと事業環境の分析が出来て、それに基づいた戦略が立てられれば良い。既存の枠組みでも新規事業の難易度が高いことは同じであるが、規制動向、顧客動向、自社の強みや弱み、持てるリソースなど、前提条件をしっかり押さえておくことが重要だ。
一方、既存の枠組みを超えて新しい事業を考える場合、事業環境の分析などむしろ出来ない方が良い。不要と言えば言い過ぎかもしれないが、前提条件を先に考えるのではなく、実現したいことを先に考えて、後から前提条件との折り合いを考えていくような思考プロセスが必要となる。
さもなくば、既存の枠組みを超える発想など出来ないからだ。そのためには、組織内に多様性を取り込んでいくこと、つまりダイバーシティマネジメントが重要になる。
求められる組織能力
既存の枠組みを超えようと思えば、求められる人材というのは社内の優秀なメンバーで構成したチームではなく、むしろ既存の枠組みを知らない外部からのリソースということになる。しかしながら、日本型の組織は流動化が進みつつあるとはいえ、その特徴は組織固有のナレッジを蓄積するところにあり、定期的な人事ローテーションの上に成り立っている。
そして外部からの人材採用も企業カルチャーとのフィット具合が重視される。つまり、ダイバーシティマネジメントは原則不要である。
ここで外部からの人材がうまく組織の文化になじめなかったり、既存の枠組みに対する理解が不十分であると、それは無能な人材として取り扱われ、いずれ排除されることとなる。こうした状況は、日々無意識のうちに起きていることであり、日本型組織が既存の枠組みを超えるビジネスモデルを打ち立てることを難しくしている。