ドクター・中松氏のイノベーションへのアプローチ

飯田哲夫 (電通国際情報サービス)

2011-04-19 08:00

 4月9日、都知事選前夜、渋谷ハチ公前広場にてドクター・中松氏に遭遇。最後の街頭演説を終えて聴衆へ名刺を配っているところであった。青白い照明に照らされて満足そうなドクター・中松氏よりゲットした名刺の裏には、その数々の業績が記されている。

 すなわち、世界発明コンテスト45回連続世界一グランプリで、米国科学学会で歴史上最も偉大な5人の科学者に選ばれ、ドクター・中松映画が世界中で大反響だ。しかも、小学校から東大まで無遅刻無欠席の勤勉さである。しかし、注目すべきは、そのイノベーションへのアプローチである。

発明の数々

 ドクター・中松氏の有名な発明に灯油ポンプがある。確かにこれがあれば、灯油の移し替えが容易に行われる優れものだ。しかし、Wikipediaによると、その発明の正式名称は「醤油チュルチュル」と言い、ドクター・中松氏が中学生の頃に母親が醤油の移し替えに苦労しているところから発明したものであるという。

 また、ドクター・中松氏が発明したと主張するものにフロッピーディスクがあるが、Wikipediaによると、これは「ナカビゾン」 もしくは「積紙式完全自動連奏蓄音器」と呼ばれ、「簡単に言うと、『レコードジャケットに穴を開けて、中身を取り出さずにそのまま使えるようにする』という特許」だそうである。

 上記以外にも、「頭に良い物質を適当に配合したことを特徴とする食品」や除雪車に原子炉を搭載してその熱で雪を解かす「原子力除雪装置」といったものが考案されている。なお、前者は「頭が良くなる根拠が不明であること」、後者は「放射能に汚染された排水の処理の仕方が明記されていない」ことから特許は成立していない(いずれもWikipedia)。

イノベーションへのアプローチ

 ここでは、ことの真偽は問わず、ドクター・中松氏のイノベーションへのアプローチを考えてみたい。ドクター・中松氏は発明家であると言うが、その発想は既存の技術に基づくものが多く、発明というよりは応用であり、イノベーションと言った方が良い。そして、そのイノベーションの特徴は、基礎的な技術の積み上げから何かを生み出すというよりは、解決したい何か、あるいはこうであったら良いなという実現イメージから物事が発想されている。

 「醤油チュルチュル」は、その名称が表す通り醤油の移し替えが簡単にできたら母親が楽になるという実現イメージが発端であり、サイフォンの原理から導き出されたものではない。「ナカビゾン(積紙式完全自動連奏蓄音器)」もその名称から推察するに、いちいちレコードをジャケットから取り出さずに再生できれば良いなという発想から出ているものであろう。「頭の良くなる食品」も「原子力除雪装置」も同様である。

 つまり、ドクター・中松氏の場合、基礎研究の延長として何かが生まれるのではなく、実現したい何かがまずリアルにイメージされ、それを実現するために既存の技術を組み合わせるというアプローチが取られる。ただ、「原子力除雪装置」に見られるように、そのギャップの埋め方が雑過ぎて実現に至らないものが多いのだろう。

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