スティーブ・ジョブズ最大の功績を分析する--一人のアンチアップル派の追悼 - (page 3)

栗原潔 (テックバイザージェイピー)

2011-10-07 11:00

 新市場を切り開くためには何が必要なのか。『キャズム』で有名な米国のコンサルタント、Geoffrey Moore氏は最新の著作『Escape Velocity』において2つのポイントを挙げている。

 一つ目は「leadership first, management second」という考え方だ。リーダーシップとは、目指す場所を本能的に感じ取り、そこに他を率いていくことだ。マネジメントとは、そこに至る道を通りやすくすることだ。優秀なマネージャーが何人いても、リーダーを置き換えることはできない。Jobs氏はまさに偉大なリーダーだ(そして、おそらくは偉大なマネージャーではないだろう)。

 もうひとつのポイントは「asymmetrical bet」、「不均衡な賭け」を行うことだ。つまり、製品の特定少数の要素だけにフォーカスして比類のないものにする一方で、他の要素を可能な限り切り捨てることだ。まさに、Apple製品はこの思想に基づいている。どの要素ももれなく及第点を目指すようなアプローチは、既存市場でシェアを維持、拡大していく場合には適切かもしれないが、新たな市場カテゴリを創成する場合には不適切だ。

 Jobs氏がなぜこの2つのポイントで成功できたかというと、これは同氏の「人間力」という他はないだろう。これは模倣困難だ。カリスマ俳優と同じことを並の俳優が真似しても様にならないのと同じだ。Appleのビジネスモデルに対する分析は数多くあり、今後も登場してくると思うが、Jobs氏のやり方を真似ても意味はないだろう(クローズドなハードウェアとコンテンツサービスの融合、直販中心の販売というモデルを模倣して失敗した「ガラパゴス」の例が思い浮かぶ)。

 そういう意味では、今後のAppleも人々に愛される素晴らしい製品を生み出すという点において、成功し続けるかもしれない。しかし、まったく新しい市場を切り開くという点では厳しくなるかもしれない。要は、「great company(偉大な企業)」ではあるかもしれないが、「insanely great company(非常識なほど偉大な企業)」ではいられなくなるかもしれない。

 スタンフォード大学卒業式でのJobs氏のスピーチにおける「Stay hungry, stay foolish」(個人的には「貪欲たれ、愚直たれ」と訳したい)というメッセージを座右の銘として心に刻んだ人は多いだろう。私もその例外ではない。

 R.I.P.

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