印刷機の時代、著作権はすべての利用を制限しようとしていなかったが、「パブリッシャーはデジタル技術が大きなパワーを持つことに気がついた。あらゆる利用をトータルにコントロールできるチャンスだと気がついたのだ」とStallman氏。
コントロールに使われるのは、Stallman氏が「デジタル手錠」と呼ぶ制限技術だ。シークレットなフォーマットで暗号をかけた作品を配布し、ユーザーはこれを解読して作品を視聴できることになる。端的なのがDRMだ。DRMは通常、「Digital Rights Management」(デジタル著作権管理)を省略した言葉だが、FSFの場合は「Digital Restriction Management」(デジタル制限管理)となる・
DRMが使われた例としてStallman氏はDVDを挙げた。「業界がフォーマットを秘密にすること、ユーザーを制限するDVDプレイヤーを製造することで合意した、これは陰謀だ」とStallman氏は主張する。だが、この暗号を解読するプログラムがフリーソフトウェアとして公開されたことから、業界は法令化に向けて活動を拡大させた。その結果、米国では1998年に「Digital Millennium Copyright Act」(デジタルミレニアム著作権法)が成立する。「米国はソフトウェアに検閲をもたらす最初の国となった」とStallman氏は言う。欧州でも同じような指令が採択されている。
映画業界は同時に、Blu-rayで新しい暗号化システム「AACS」(Advanced Access Content System)を打ち立てた。だがそれも、結局は誰かがフォーマットの解読に成功し、鍵も公開されたために、業界側は鍵を変更した。Blu-rayではさらにもう一層のレイヤがあるが、「Blu-rayにはユーザーの自由と互換性がない。阻止する必要がある」とStallman氏は述べ、このような製品を受け入れないよう呼びかけた。
デジタル手錠は映画だけでなく、音楽でも利用されている。Stallman氏はソニーのルートキットの例を挙げた。「ルートキットはコンピュータを勝手に制御し、変更するウイルスと同じ性質のものだ。1つ目の変更は、コンピュータ上でディスクの機能を制限する。2つ目の変更は、コンピュータを変更して内部を調べ、自身の存在を隠す。3つ目の変更は、ソフトウェアを削除する」とStallman氏、「これだけでも犯罪といえるが、それだけではなかった」という。コードには、GPLの下で公開されているフリーソフトウェアが含まれていたのだ。つまり、ソニーはそのコードを含むものを同じGPLの下で配布する義務があったが、これに従わなかった。「商用的な著作権侵害だ」とStallman氏。
だが、ソニーは起訴されなかった。「なぜなら、米国政府はソニーの目的が権力の維持にあると理解しており、法はわれわれユーザーの権利を擁護することを目的としていないからだ」とStallman氏は述べる。その後、ユーザーがソニーを相手取って集団訴訟を起こしたが、「残念ながらフォーカスはソニーが抱いていた邪悪な目的ではなく、質の悪いメソッドだった」ため、ソニーがその手法を用いないという点で和解した。
音楽でのDRMは改善しつつあったが、「Spotify」などのストリーミングで再度デジタル手錠がカムバックしつつあると警鐘を鳴らす。Spotifyの場合、ユーザーは利用にあたってプロプライエタリプログラムを使う必要があるが、このプログラムはユーザーの自由を制限する。実際、Spotifyは今年、一方的に利用条項を変更して無料モデルに制限を加えている。