非機能要求検討の“鉄則3カ条”--その2:要求間のトレードオフを見極める - (page 2)

五味明子 2011年12月27日 13時30分

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最大の非機能要求、それはコスト

 導入時と運用時のトレードオフは、よく「イニシャルコストとトータルコストの比較」と言われることがある。要求間のトレードオフも同様で、結局は要求間というよりは、個々の非機能要求とコストが天秤にかけられている状態だといえる。

 チケット販売システムの例から再び考えてみよう。「1. いつでも」にある「深夜2〜4時の保守時間を除き、サービスを提供する」という可用性にかかわる非機能要求を実現するためには、やはりある程度の冗長性が求められる。冗長化すればするほど、コストは高くなり、「4. コストを安く」で定義している「保守作業自動化のためのツールや仕組み」だけで対応することは難しくなる。

 ではこの場合、どこで線引きを行うことが妥当なのか。実現すべき非機能要求の優先順位を考慮すべきという意見はもっともであるが、数多い非機能要求を順位付けしていく作業はあまり現実的ではない。それよりも非機能要求Aと非機能要求Bを比較した場合、Aのほうが優先度は高い、と判断する“見極め”のほうが重要であり、その見極めは原則、発注側が行うべきである。

 だが最終的な判断基準はやはりコストとなる。この場合、「ビジネスで得られる収益より冗長化のコストが超過しない」ことが上限であり、「ビジネスの機会を損失するほど長時間停止しない」ことが下限となる。つまり個々の非機能要求における費用対効果をできるだけ正しく見極めることが要求間のトレードオフを考慮する最大のポイントとなる。

モデルシステムシートを使ったトレードオフの見極め

 非機能要求間のトレードオフを見極めるために、非機能要求グレードを活用する方法もある。

 非機能要求グレードには以下の3つのモデルシステムが定義されている。

  • 社会的影響がほとんどないシステム(企業の部門システムに相当)
  • 社会的影響が限定されるシステム(企業の基幹システムに相当)
  • 社会的影響がきわめて大きいシステム(社会インフラシステムに相当)

 非機能要求グレードでは、この3つのモデルシステムに対する非機能要求を、典型的な16の特徴で定義している。

 情報システムを構築する場合、そのシステムが3つのモデルのどれにいちばん近いかを選ぶことで、実現すべき非機能要求項目の大まかなレベルがわかるようになっている。これを叩き台にし、コストに応じて個々の非機能要求間のトレードオフを見極めていくと設定しやすくなる。

 先に挙げたチケット販売システムは「社会的影響が限定されるシステム」にあたる。このモデルシステムでは稼働率(可用性)は99.99%とあるが、発注側は、人気のチケットが販売されている時間帯は1秒でもサービスを止めたくないはずである。したがってアクセス過多の時間帯はクラウドでリソースを増やす(性能・拡張性)ことが必要で、実現するためにはクラウドサービスの使用料金といったコストが発生する。ここで増えたコストをプロジェクトの予算にそのまま追加できれば問題はないが、もし予算超過が認められない場合は、別の非機能要求のレベルを下げることでコストの増加を抑えなければならない(たいていの場合、予算厳守は至上課題)。たとえば、システムが正常に稼動しているかどうかの監視(運用・保守)は自動化ツールを導入せずに初期コストを抑え、運用は他のシステムと兼用の要員で行うことにして人的コストを抑える、などが考えられる。

 次回は、鉄則3カ条の最後である「定期的に見直す。見直せる運用にしておく」について解説する。

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