IPA(独立行政法人情報処理推進機構)では、産業界におけるソフトウェアの品質説明力の強化を目指して、新たに「ソフトウェア品質監査制度(制度名については仮称)」の確立に向けた取り組みを進めている。
本特集では、IPA ソフトウェア・エンジニアリング・センター(IPA/SEC)の協力の下、同制度の目的やフレームワーク、具体的な取り組みの内容などについて、4回に渡って解説していく。
第1回となる今回は、新たな制度を作る必要が生じているその背景に触れていきたい。
第三者による検証で品質説明力を高める
IPA/SECの統合系プロジェクトにおいて「第三者による検証・妥当性確認の枠組み」に関する検討チームが結成されたのは2010年4月のことである。その前月に行われた産構審情報システム・ソフトウェア小委員会での提起を受けてのことだ。その後、同7月に調査活動を開始、同11月に名古屋大学の高田広章教授を主査として制度検討委員会が発足した。
なぜIPAがこのような取り組みを始めることになったのか。その背景としては、次の4つのポイントが挙げられている。
- 品質説明に対する市場意識の変化
- 製品仕様と利用者要求とのギャップの拡大
- 先端技術製品の潜在リスクへの不安
- 品質文化の異なる業界横断でのシステム化
以下では、この4つのポイントについて詳しく解説する。
第三者視点を取り入れた品質説明が必要
IPA/SECで品質監査制度に対する取り組みを始めた2010年初頭といえば、米国で大手自動車メーカーによる大規模リコールが大きな注目を集めた時期でもある。このときに特に問題となったのが「品質説明力」だ。このリコールをめぐっては、電子制御システムの安全性に関する疑惑が取り沙汰され、最終的に公的機関による検証が行われる結果となった。事業者の説明だけでは不十分と判断されたためである。
組込みシステムに対する機能安全や品質向上に対しては、長年にわたって各社あるいは各業界ごとに熱心に取り組んできた。しかしながら、このリコール問題に関する米国の対応は、当事者企業の技術的な主張だけでは品質の説明として不十分だという事実を示している。利用者に品質や安全性を納得してもらうためには、中立な立場からの客観的な評価が不可欠なのだ。さらに、その評価を技術に対する専門的な知識を持たない消費者にも分かりやすい形で提供できなければならない。そこで、第三者による検証や妥当性確認、情報の公開までを盛り込んだ新しい枠組みが求められているというわけである。