売上向上のため、そして競合他社との差別化を図るため、多くの企業が「顧客満足度の向上」という目標を掲げている。この目標を実現するための手段のひとつとして、VOC(Voice of Custmer:顧客の声)を収集して分析し、製品開発やサービス提供に生かす取り組みが数多く行われている。
従来、このVOCの収集は、コンタクトセンターでの対応記録、消費者アンケート、リサーチ会社による市場調査といった手段が中心となっていたが、近年ではインターネットの掲示板に加え、SNS、ブログ、Twitterといったソーシャルメディアも、重要なチャネルになっているという。
消費者が、自社やその市場に対して、どのようなかかわり方をしているのか。彼らが満足感をおぼえる製品やサービスのあり方はどのようなものか。これらをより深く知るために、さまざまなチャネルから収集できる情報を、いかに活用すればいいのだろうか。
もしもしホットライン、マーケティングサイエンス研究所所長の久野誠氏
日本IBMの主催による「Information On Demand Conference Japan 2012」では、「顧客期待の分類と本音(VOC)からの分析事例『対話とソーシャルメディアを活用したCRM実践に向けて』」と題して、もしもしホットライン、マーケティングサイエンス研究所 所長の久野誠氏が講演を行った。
三井物産グループの企業として、コンタクトセンターを拠点としたカスタマーサポートサービスを提供する同社が、ソーシャルメディアの分析に取り組む理由と、そこから開ける分析の可能性について語られた。
「クチコミ」情報がCS向上の重要なヒントに
マーケティングサイエンス研究所の取り組みは、さまざまな定量データ、定性データに基づく消費者行動の分析を行い、それを企業のマーケティング活動に生かすことである。
「なぜ、コンタクトセンターをメインとしていた企業が、ソーシャルメディア分析を手がけるのかといった疑問もあると思うが、それが消費者行動や顧客の声を反映するものとなっているからにほかならない。CRMや顧客戦略の中心的な組織としてコンタクトセンターを位置づけるにあたって、ソーシャルを活用したクチコミ分析を取り入れていくことが必要となってきた」と久野氏は言う。
久野氏は、顧客満足度に影響を与える要素としてJSCI(日本版顧客満足度指数)の「満足度構造モデル」をひきつつ説明を行った。このモデルによれば「総合満足度」を上げたい場合、それだけを直接引き上げることは難しく、「顧客期待(利用前の期待・予想)」「知覚品質(品質評価)」「知覚価値(価格への納得感)」などの指数が、複合的に影響を与える。また、形成された「総合満足度」は、その後の行動につながる「推薦・紹介意向(クチコミ)」や「継続意向(ロイヤルティ)」に関係する。
久野氏は、この「推薦・紹介意向」にあたる「クチコミ」が、このモデル全体の指数に影響を与えるものとなってきているとし、その醸成にソーシャルメディアが大きな役割を果たすようになっていると説明する。
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しかし、従来のマーケティングで広く利用されていた「企業が所有している(できる)情報」と、ソーシャルメディアで消費者間に流通する情報の間には大きな違いがあるとする。
「ソーシャルメディアの情報は、いわゆる消費者の『本音』を反映している一方で、その量が膨大になる。そこで、実際には『どう活用するか』の明確な方針を持って取り組む必要がある。そこに記述されている内容そのものはVOCではない。その中から、どのような情報を選び出し、磨き上げるかが重要になる」(久野氏)
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ソーシャルメディアの中から、分析の目的にあったデータを得られるサイトをどう選ぶかについて、久野氏は参考情報として、Twitter、Facebook、Q&Aサイト、ブログ、そして「2ちゃんねる」のそれぞれの特徴と、その活用用途についての例を示した。
例えば、Facebookは企業側からの情報発信にも利用できるため、インタラクティブなVOCの収集やファンの声の傾聴などに活用できるとする。またQ&Aサイトは「わからない」や「おかしい」といった声を事前に収集することで、コンタクトセンターのFAQやウェブサイトの改善につながる有用な情報を入手できるなどとした。