シャープの目的はキャッシュの入手ではない
シャープは、SDP株の譲渡で660億円、シャープ株の第三者割当で669億円を調達する。
過去最大の赤字を計上したことで同社の財務が痛んでいるのは確かだが、今回の提携でシャープが目指したのは、キャッシュを手に入れることではない。
むしろ、50%に留まっていた堺工場の稼働率を引き上げ、安定稼働させる狙いの方が大きい。工場が稼働しないことほど業績を悪化させる要因はない。これだけの大型工場ならばなおさらだ。工場の安定稼働は、業績改善の必須条件となる。
※クリックで拡大画像を表示
今回の提携では、鴻海精密工業は、2012年10月を目標に堺工場で生産する第10世代による大型液晶パネルの調達を開始。最終的には引き取り比率を50%まで高める計画である。そして、50%の引き取りについては「引き取り責任が発生する」(シャープの奥田隆司社長)という操業を維持する内容だ。ここにも工場の稼働が優先した契約であることが裏付けられる。
一方、鴻海グループにとっての課題は収益性の悪さである。売上高では3兆4520億台湾ドル(約9兆3000億円)と、日本最大の電機メーカーである日立製作所の9兆5000億円(2011年度見通し)に匹敵するが、営業利益率は2%台。労働条件の改善が求められ、今後、中国における人件費が高騰するとみられるなかで、営業利益率のさらなる悪化は必至である。そこに、付加価値の高い堺工場のパネル生産を手に入れることができれば、利益率改善に大きく寄与することになる。
また、注目を集めるアップルのテレビ製品「Apple TV」へのパネル採用でも、鴻海グループにとっては調達面と利益確保において、この提携がプラス要素に働くことになる。
だが、シャープにとってみれば、同社にとって最大の付加価値製品を生むはずだった堺工場を、両手で支える体制から、鴻海グループとともに片手で支える体制になったのは事実である。この判断が間違いでなかったことを期待したいと思う。