独SAPは米国時間5月17日まで米フロリダ州オーランドで開催した年次イベント「SAPPHIRE NOW Orlando 2012」を開催。2日目となる15日の基調講演には共同最高経営責任者(CEO)のJim Hagemann Snabe氏が登壇し、SAPのイノベーション戦略を説明した。
Snabe氏はSAPのフォーカスカテゴリについて説明し、ソフトウェアのパワーと“ビジネスウェブ”による新しいエンタープライズを提示した。初日の基調講演で、共同CEOのBill McDermott氏がビジネスを取り巻く環境がテーマだったのに対し、Snabe氏はSAPの具体的な戦略の大枠を示した。
2年前からSAPはインメモリ、モバイル、クラウドの3つによるイノベーションを強調しており、2日目の基調講演はこれによるメリットにフォーカスしたものとなった。
創業40年になるSAP
今回のSAPPHIRE NOWには72カ国からの参加があり、Fortuneが選ぶ最もイノベイティブな企業の70%が集まったという。このようなグローバルさを反映し、テーマはIT業界にとどまらず、都市や人口、資源問題を抱える地球全体となった。Snabe氏は、SAPの40年の歴史を技術と人類の点から振り返っている。
SAP創業年である1972年の人口は38億人、技術ではJohn F Kennedy大統領が提唱したアポロ計画が月面着陸と帰還というハイライトを迎えていた。アポロ計画を支えていたシステムのメインメモリは32kバイト。これは現在のメロディ付きバースデーカードの半分だという。米Hewlett-Packard(HP)のハンドヘルド計算機「HP-35」も画期的だった。
同じ頃、元IBMの5人がドイツに立ち上げたのがSAPだ。当初からリアルタイムコンピューティングにより企業経営を改善するというビジョンを掲げていた。
そして40年後の現在、われわれは64Gバイトのメインメモリ、GPS、HDカメラなどを搭載し、ビデオ会議やモバイル決済ができるスマートフォンなどの端末に囲まれている。人口は70億人と倍増した。
増え続ける人口と高齢化、都市への集中などがヘルスケア、労働市場、税などに与える影響は計り知れない。環境問題はもちろん、中流層の急増で食料をはじめとした資源問題も懸念されている。石器時代からこれまで生産したのと同じ量の食料を今後40年間で生産しなければならないという予測もなされているという。
5年以内にすべてがインメモリになる
われわれの将来にはこのような課題があるが、未来は固定しているわけではない。Snabe氏は資源の効率化による持続性改善で将来によいインパクトを与えることができるとみる。「技術を通じて将来を革新していく。イノベーションを通じて、これらの課題をいくつか解決できると信じている」と楽観的に見ており「ビジネスソフトウェアは大きなコントリビューターになる」として、ソフトウェアへのフォーカスを強調した。
共同CEOに就任以来掲げてきたクラウド、モバイル、インメモリは、「1970年代のメインフレーム、1990年代のクライアント/サーバに次ぐ、新しいパラダイムシフトだ」と述べ、「5年以内にすべてがモバイルになり、すべてがクラウドになり、すべてがインメモリになる」と予言した。
業界では現在のパラダイムシフトをクラウドとモバイルで表現するが、SAPの場合、これにインメモリが加わる。Snabe氏は自身の予言について「モバイルとクラウドについては同意を得られると思うが、インメモリではディスクに固執して懐疑的な人がいるようだ」と言う。
実はSAPPHIRE NOWが開催される少し前、米Oracleがウェブセミナーで自社のインメモリ分析専用機「Oracle Exalytics」とSAPのインメモリ技術「HANA」を比較し、「SQLサポートがない」「高価格だ」などと批判。これに不正確だとしてSAPの最高技術責任者(CTO)をはじめとする幹部がブログで反論するという一幕があった。