「SAP」という社名にどんなイメージを持っているだろうか。多くは「ERP」「業務アプリケーション」「大企業向け」といった言葉を思い浮かべるはずだ。今年で日本法人設立から20周年を迎える同社は、いま、そのイメージからの転換を図り、創業時の理念である「リアルタイム経営」を掲げて新たな一歩を踏み出そうとしている。
節目の年にあたり、同社は現在、どのような方向に舵を切ろうとしているのか。SAPジャパンの安斎富太郎社長に話を聞いた。
外資系企業の難しさはグローバルとローカルのバランス
昨年1月に営業部隊を統括する専務執行役員としてSAPジャパンに入社した安斎氏。IBM、Dellなどで培ってきた長年の営業手腕を請われてのことだったが、入社にあたっては2007年まで日本法人の社長を務めていたロバート・エンスリン氏(現在はグローバルセールス部門のプレジデント)から直接打診されたという。
SAPジャパンの安斎富太郎社長
「日本法人の営業部隊を立て直すだけではなく、SAPジャパンを日本の会社として顧客に認知してもらうことに尽力してほしい」と日本をよく知るエンスリン氏から懇願された安斎氏は「これこそが30年以上に渡って日本の顧客を見てきた自分がやるべき仕事」と強く感じたと振り返る。
半年後の7月、前任のギャレット・イルグ氏の退社に伴い、日本法人のリーダーとして社長に就任している。
「グローバル企業の日本法人を経営する上で難しい点はバーティカルとホリゾンタルのバランス。グローバルの一員とローカルの企業というそれぞれの立ち位置があるが、どちらかに傾いてはいけない」と安斎氏。
SAPジャパンの日本企業としてのプレゼンスが低下していると判断した本社は、日本の顧客と強いつながりをもつ安斎氏をトップに指名した。また、営業を統括するサービス統括本部長(専務執行役員)には同じ日本人の三澤一文氏が、最高業務執行役員および最高財務責任者には米国とドイツの本社からそれぞれ役員が就任している。
安斎氏らがフロントエンドとして日本の顧客に相対し、米国とドイツにチャネルをもつ役員がバックエンドのオペレーション部門でグローバルの意向を反映する--グローバル企業の日本法人のあり方として非常に興味深い。
この体制になってからは、安斎氏がグローバルとの調整に時間を取られることが少なくなり、顧客を訪問する回数を増やすことができているという。東日本大震災や円高などマイナス要因が多い日本経済にあって、SAPジャパンが順調に業績を伸ばしてきた理由の一端をここに垣間見ることができる。
長年に渡って日本の顧客を見てきた安斎氏だが、東日本大震災以降、日本の顧客のITに対する考え方が大きく変わりつつあることを如実に感じるという。「あの地震で、多くのお客様が、瞬時に対応すること、ITをシンプル化させることの重要性を身をもって実感した。加えてコスト削減の必要性もあり、クラウドや仮想化、モバイルへの関心が高まっている。経営におけるスピードの重要性が強く認識されたことで、SAPが追求するリアルタイムソリューションが日本のお客様にも受け入れられつつあるのでは。2012年第1四半期も順調に推移している」と強調する。