独SAPは米オーランドで開催した「SAPPHIRE NOW Orlando 2012」で新しいクラウド戦略を発表した。これまで同社のクラウド戦略は、オンプレミスで事業を展開してきたSAPが考えたものだが、今回はSAPが買収したSaaS専業ベンダーのSuccessFactorsの創業者兼CEOのLars Dalgaard氏が打ち出したものになる。
クラウド出身のDalgaard氏の下、これまでの統合スイートからサービスを疎結合するアプローチに方向転換することになる。新しいSAPのクラウド戦略について同社グローバルマーケティングでクラウド担当バイスプレジデントのDinesh Sharma氏に聞いた。
統合よりも疎結合の方がアピールできる
――SAPPHIREで新しいクラウド戦略を発表しました。統合スイートよりも疎結合を強調していますが、SAPのクラウド戦略について改めて教えてください。これまでわれわれは、「Business ByDesign」として統合スイート型のSaaSを提案してきた。統合スイートはオンプレミスで強いコンセプトで進めており、クラウドでもニーズはある。Business ByDesignの顧客企業は1200社に達しており、成功した製品だ。
今回、買収したSuccessFactorsのLars(Lars Dalgaard氏)がクラウドを統括することになり、SuccessFactorsが提供する人材活用などのSaaSとSAPのSaaSを組み合わせることになった。戦略を練った末、統合スイートはパワフルだが、疎結合というコンセプトの方がエンタープライズ顧客にはアピールすると判断した。
たとえば最初に営業やマーケティングと学習系のSaaSを導入し、その後でほかのコンポーネントも加える、というものだ。統合スイートを一括で購入するのではなく、長期的に疎結合のスイートが構築されることになる。これがSAPの新しいクラウド戦略の方向性となる。
新戦略の下、製品を「People」「Money」「Suppliers」「Customers」という4カテゴリに分類した。PeopleはSuccessFactorsの人材管理などが中心で、Customersには「Sales OnDemand」「Social Media Engagement OnDemand」などが含まれる。顧客はこれら4カテゴリのソリューションを緩く統合できる。
統合という点では「SAP NetWeaver Cloud」(開発コード:Neo)を発表した。これまでわれわれは全部自社でやろうとしてきたが、今後はオンデマンド分野のすばらしいサービスを統合できるオープン戦略を進める。SAPPHIREではDellの「Boomi」、IBM「Cast Iron」、Mulesoftなどとの統合を発表した。
これらを利用して、他社のオンプレミスソフトウェアと統合できる。このような提携は今後も拡大したいと思っている。SAPのオンプレミスソフトと統合したい場合は「SAP NetWeaver Cloud Integration Service」を提供する。
――クラウドの統合プラットフォームとしてのNetWeaver Cloudでは、どのような戦略となりますか?クラウドでは自分のアプリケーションを付加して機能を強化できるというメリットがある。ここでもSAPはオープン戦略を取り、VMwareのPaaS「Cloud Foundry」と提携し、SAPのプラットフォームだけではなくCloud Foundryを通じて拡張できる。
SAPのクラウドの価値を拡張するには新しい開発者が必要で、ここでは、JavaやRubyを使うたくさんの新しい開発者に呼びかけたいと思っている。このように、アプリケーションと統合の両方でオープンな拡張を目指すのが新しい戦略の特徴となる。
――インメモリ技術の「HANA」では外部開発者向けにアプリケーション開発を奨励するイニシアティブを展開し、Amazon Web Servicesでのラインセンスを無料にしました。クラウドではどうやって新しい開発者に訴求するのですか?HANAのような基金は用意しないが、NetWeaver Cloudの利用を簡単にし、利用を促進するような組織を作る。具体的な開発者向け戦略はまだ発表していないが、ソフトウェア開発キット(SDK)は数カ月前からベータ版を公開しており、すでにコードを書くことができる。一般公開は7月の予定だ。
――アプリケーションストアの展開は?現在「SAP eStore」を提供しており、今後は開発者もeStoreでアプリケーションを配信できる。