三国大洋のスクラップブック

アップルのお家騒動が生んだ「史上最大の組織変更」

三国大洋 2012年11月06日 18時00分

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社内の調整を乗り切ったティム・クックCEO
社内の調整を乗り切ったティム・クックCEO

 アップルの株価下落が止まらない。

 過去最高値の702ドル10セントをつけたのは9月19日のことで、それからほぼ1カ月半の間に120ドル以上も値下がりした。米国時間11月2日の終値は前日比3.31%安の576ドル80セント。この水準まで下がったのは、4〜6月決算を発表した後の7月下旬と6月末の2回だ。

 11月2日はDow JonesとNASDAQの下げ幅がそれぞれ1%ちょっとであったため、アップル株の値下がりの大きさが余計目についてしまう——iPad miniに対する反応の鈍さを目にした投資家の悲観ぶりが伝わってくるようだ。

 この2カ月ほどの間にあったことを改めて確認すると、

  • 09月12日:iPhone 5 発表
  • 09月21日:iPhone 5 発売
  • 09月28日:「マップ」についてティム・クック謝罪(レター公開)
  • 10月23日:「iPad mini」など発表
  • 10月25日:7〜9月期決算発表、2四半期連続でアナリスト予想に届かず
  • 10月29日:スコット・フォーストルらの事実上の解任
  • 11月02日:iPad mini発売

 現時点では、年末商戦期に向けた仕込みをすべて終えた——あとは現場のがんばり次第ということで、つぎの大きなマイルストーンは来年1月後半の10〜12月期決算発表ということになろう。そのなかで、iPhone 5をはじめとする各製品の量産体制がどれだけ整ってきているかが、大きな鍵になると思われる。

 さて。

 こうした流れを背景に、先週あった経営陣の入れ替えに関する話題(アップルでのトロイカ体制の確立)をもう少し掘り下げてみたい。前回の執筆と前後して、期待通り、いくつか興味深い記事が出てきているので、それらを紹介していこう。

アップル史上最大級の組織改編

 まず、長年アップルでソフトウェア・エバンジェリストとして働いた経験を持つマット・ドランスという人物は、10月30日に公開したブログ記事のなかで、「あれでティム・クックCEOという人間がどんな人物であるかがよくわかった」「私はこれまでクックという人物のことを過小評価していた」などと記している。

 ドランスが舌を巻いているのは、まず今回の発表のやり方だ。同氏の見方では、J.C.ペニーに移った元リテール責任者のロン・ジョンソンの後任として雇い入れたジョン・ブロウェットが、その役割を担うにはまだ未熟であることは早いうちにわかっていた。そのことはApple Storeスタッフの解雇などで表面化していたのだが、これとフォーストルの退任を別々かつ続けざまに発表してしまうと、アップルに対する信頼感が大きく損なわれかねない。同時にフォーストルのクビを早く発表しすぎてしまうと、同氏が指揮するiOS開発チームの混乱や士気低下につながり、新製品発売にも支障をきたしかねない。

 そういう計算の上で、主立った新製品や決算を公開し終えたタイミングを選び、しかも簡潔な告知だけで発表を済ませてしまった。

 とりあえずは、ダメージを最小限に食い止めたというのである。

 どんな経営者にとっても、この種の決断が簡単ではないことは想像に堅くない。しかし、ティム・クックはこの局面でも冷静に判断を下したといえよう。

 ほかにもこのブログ記事では、アップルで長年ソフトウェア部門を率いていたバートランド・サーレイが退社した後、「フォーストルがその後釜に座りたがっていたとしても不思議はない」けれども、「なにかとほかの人間に突っかかるようなフォーストルのスタイルが、まさかクビにつながるとは思いもしなかった」などの所感もみられる。

 さらに、これはインサイダーならではの所見と思えるが、今回の新人事でティム・クックがフォーストルの後任を置かず、代わりに職責を3つに分割して、ジョニー・アイブ(インターフェース)、クレイグ・フェデリギ(OS)、エディー・キュー(ウェブサービス)に任せることにした。これは「自分の知るかぎり、アップルの歴史のなかでも最大級の組織変更」——つまり、これまで良くも悪しくも社内の反発し合う勢力をうまく競わせて事業を成功に導いてきたアップルで、はじめてそういう反発の目がなくなる、というのである。

 この部分、原文には次のように書かれている。

There's a long-standing pattern of separating watershed products important to the company's future. The Mac and Apple teams. Mac OS X and Classic. The iPod division. iOS and Mac OS X. Suddenly, Tim Cook has pulled the reins in. Federighi owns software. Ive owns design. Cue owns services. Period.

 ティム・クックはこの重大な決断を下したことで、本当の意味で自分の意に沿う形の組織づくりに乗り出したといえるかもしれない。同時にこれが「仲良しクラブ」に堕するリスクを抱え込む決断、という見方もできよう。

 ドランスは結びの部分で、「組織の巨大化に伴って起こる社内での政治的な駆け引きや混乱、失敗(過失)、責任のなすりつけ合いなどは、アップルの製品にも、ユーザーにもよくないこと」であり、幹部の入れ替えでそれがなくなるのは好ましいことだとしながら、同時にキュー、フェデリギ、アイブといった各上級幹部の「負担が重くなりすぎはしないか」「最悪の場合は、優れた幹部の能力が分散されすぎて、あらゆることに悪い影響が出る」として、「これらは本当の成長に伴う痛み」だと述べている。

 このドランスのコメントも引用されているBusinessweekの長い記事には、スティーブ・ジョブズの死後に起こった縄張り争いや、フォーストルの抜けた穴の大きさを伝える話などが詳しく記されている。

ジョブズ没後に勃発した縄張り争い

 このBusinessweekの記事によると、ジョブズの死後数カ月にわたって、上級幹部の間で縄張り争いが生じていたという。Mac OS Xチームを見ていたクレイグ・フェデリギがSVPに昇格して経営チームに入ったのが今年8月末だから、この頃までに大方の決着がついていたということになるかもしれない。

 公開情報をもとにした勝手な想像だが、長年ジョブズの親衛隊長を任じてきたフォーストルが後ろ盾であるジョブズを失った結果、幹部間で文字通り「孤立」した状態となった。以前から「野心満々」と伝えられていたフォーストルは自分の影響力低下を怖れ、逆に基盤強化をはかろうと、OS Xチームまで自分の管理下に置こうと動いたのかもしれない。

 これに対して、フォーストルとは以前から犬猿の仲といわれていたアイブやマンスフィールドなどから反対する声があがり、ティム・クックは「社内の調整」に集中せざるを得なくなった……。

 今年初めの3カ月間、対外的に「八面六臂の活躍ぶり」を見せていたティム・クックは、4月以降に公の場に出ることがめっきり少なくなる。4月と7月の決算発表、それに5月下旬のAllThingsDのDカンファレンスへの登場以外、ほぼニュースになっていなかったことの裏側には、あるいはそんな事情があったのかもしれない。

 また、6月末にアップルはマンスフィールドの退社をいったん発表したが、いまから思うとこの頃には縄張り争いが頂点に達し、マンスフィールドも本気で愛想が尽きていたのかもしれない。なお、既報の通り、その2カ月後の8月下旬にはマンスフィールドの復帰が、フェデリギならびにダン・リッチオのSVP昇格などと同時に発表されていた。

 むろん別の展開——たとえば、フォーストルの後ろ盾がジョブズであることを心配せずにすむようになったアイブらが、前々から衝突することの多かったフォーストルの追い落としに動いた、という可能性も考えられなくはない。

 このあたりの事情については、複数のメディアが「縄張り争いがあった」とする匿名関係者の話を伝えているだけで、真相はわからない。

 ただし、可能性としてひとつありそうなのは、元々OS Xのユーザーインターフェースの開発で頭角を現したフォーストルに、iOSに加えてOS Xまで任せるという選択肢が理にかなっていると、クックもいったんは判断した。同時に、抗議の意味も含めて辞表を出したマンスフィールドの退社をクックが「やむを得ぬこと」として受け入れた。ところが、マンスフィールドと緊密にハードウェアを開発してきたアイブや、あるいはマンスフィールドの下で働いていたスタッフらの進言(「ダン・リッチオにはまだ荷が重い」という声がハードウェア部門から上がった)を聞き入れて、クックがマンスフィールドの慰留に動いた……といったものになるだろう。ただし、この時点ではまだ例の自社製「マップ」アプリをめぐる混乱は生じていなかったから、フォーストルの解任といった可能性まで出ていたどうかはわからない。

 なお、フォーストルと他の幹部らとの仲違いについては、いくつかのメディアが詳しく記している。

 例えばBusinessweekには、「ずっとiPhoneのデザインを担当しているアイブが定期的に開いていたデザイン・グループでの幹部向け製品プレビューミーティングに、iOS責任者のフォーストルが顔を出すことは決してなく、またフォーストルが開くヒューマン・インターフェース・グループのミーティングでアイブの顔を見かけることもなかった」「二人が同じ部屋にいることはめったになかった」「ふたりの意見が食い違った時には、いつもジョブズが決断を下していた」などとある。

 また、Businessweekと同様に「ジョブズの死後、社内で縄張り争いがあったようだ」とするアナリストのコメントを紹介したRuetersの記事にも、例の「似非リアルなデザイン」をめぐる二人の確執に触れている。

 さらに、AllThingsDでは、ボブ・マンスフィールドが一時は真剣に退社しようとしていたという複数の情報筋からの話を踏まえ、「このタイミングでボブがアップルに戻る(契約を2年延長)ことにしたのは偶然の一致ではない」とする話を紹介。その上で、「マンスフィールドはもともと、フォーストルの(ジョブズ譲りの)けんか腰のマネジメントスタイルが好きではなく、全般にフォーストルを避けようとしていた」という話を記している。さらに、この記事を書いたジョン・パコウスキーは、昨年ジョブズの死後すぐにBusinessweekが伝えていた「ティム・クック同席でなければ、マンスフィールドとフォーストルはミーティングもしなかった」というエピソードにも触れ、「自分も同じような話をたくさん聞いたことがある」と記している。

 だいぶ話がながくなった。まだ「スコット・フォーストルの抜けた穴(の大きさ)」、さらに「ボブ・マンスフィールド浮上の意義」「エディー・キューの担う役目の重さ」「ジョニー・アイブへの新たな期待」といったところまで話が進んでいないが、これらについては次回に紹介することとしたい。

(敬称略)

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