ハイリスク・ハイリターンを求める脳と経営戦略

飯田哲夫 (電通国際情報サービス) 2012年11月27日 08時00分

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 11月13日、東北大学大学院の飯島敏夫教授が「ハイリスクハイリターンを好む脳の領域を発見」と題する研究を発表した。つまり、脳の中には、リスクを積極的に取りに行くことを指向する領域がある、ということだ。

 飯島教授は、ラットを使った実験により、一定数のラットは、確実に得られる2滴の水より、2回に1回の確率で得られる4滴の水を狙いにいくという。そして、その傾向は喉が渇けばより強まると言う。一方で、その領域の神経活動を抑制するとリスクの低い堅実な選択肢を選ぶようになる。

経営戦略へ応用すると

 飯島教授は、この実験の成果が、ギャンブル依存症などの治療に役立つとする一方、ニューロエコノミクス(神経経済学)の観点から、経営戦略にも活かせることを指摘している。生命の生存戦略において、過度なリスク指向は、生存確率を低下させる一方、過度なリスク回避指向もまた、変化に対する適応を阻害するだろう。

 これを企業の成長戦略に置き換えるならば、いかに適切なリスクテイクを行える企業体質を構築するかということだ。存続の危機において起死回生の一発を狙いに行く経営戦略が自滅を招くケースもある。一方で、経営戦略が保守的となり過ぎて、変化に適応出来なくなっても困るのだ。

リスクテイクの人材戦略

 飯島教授の研究成果を活用するとすれば、究極的には経営陣や社員の脳にあるハイリスクハイリターンを好む領域をどう活かすかということになる。一つは、人材のポートフォリオとして、リスクテイクを好む社員と好まない社員の比率をコントロールすることが考えられる。

 しかしながら、企業が安定成長を続けている時に、過度にリスクを取りに行く人材は不要とされ、別のフィールドを求めて会社を去って行くだろう。一方、いざリスクテイクが必要となった時には、社内は保守的な人材ばかりでハイリスク脳を持った人材を見出すのは困難だ。

 もう一つは、今いる社員の脳を刺激、あるいは抑制して、企業としてのリスク性向をコントロールすることだ。刺激するための施策は、社員の危機意識を醸成したり、社外の敵を意識させるなど、ターンアラウンド戦略として議論されてきた。しかし、これもハイリスクハイリターン脳を持つ社員が少なければ効果は限定的となる。

人材ポートフォリオのマネジメント

 資産運用においては、人生のライフステージに合わせて、ハイリスクの資産とローリスクの資産の比率を変えていくことが重要とされる。つまり、人生のライフサイクルに応じてポートフォリオをコントロールすることが必要だ。引退してから、ハイリスクハイリターンを狙って、資産を大きく目減りさせるわけにはいかないのだ。

 企業もそのライフステージに合わせて、ハイリスクハイリターンを狙う人材とローリスクローリターンを狙う人材のポートフォリオの配分を考えていく必要がある。一般的には、起業段階においては、よりリスク指向の高い人材が活躍するが、成長ステージでは保守的な人材が増加する。しかし、企業が成長の結果として、大企業病やイノベーションの欠如に悩むのは、もう一度リスク指向の人材を増やす必要性への認識が欠如しているからに他ならない。

 企業における人材ポートフォリオ戦略は、事業ポートフォリオ戦略に先立つものとして、事業戦略以上に先手を打った行動が求められる。つまり、事業ポートフォリオを刷新しようとしても、それを担う人材がいなくては経営戦略論も意味をなさない。

 人材ポートフォリオとは、企業の取るべき選択肢の中で、もっとも将来への先見性が求められる領域ではないだろうか。ハイリスクハイリターン脳の抑制には、ラットの脳に薬剤を注入することで効果が得られたようであるが、企業の成長のために人間の脳に薬剤を注入する訳にはいかないのである。

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飯田哲夫(Tetsuo Iida)

電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。

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