楽天とグリーが取り組む「顧客の体験価値」の向上

齋藤公二 (インサイト)

2013-01-11 17:55

 モノが売れない時代と言われるなか、企業各社はカスタマーエクスペリエンス(顧客の体験価値、CX)の向上に力を入れている。だが、カスタマーエクスペリエンスの向上には、ウェブサイト、コールセンター、メール、チャットといったさまざまなチャネルにおける取り組みが必要であり、さらには具体的な成果が見えにくいという課題がある。

 そんななか、日本オラクルが10月31日に開催したイベント「ORACLE CUSTOMER EXPERIENCE SUMMIT 〜顧客感動体験のチカラ」では、楽天とグリーの担当者が、自社におけるカスタマーエクスペリエンス向上について講演した。

 両社が、どのように施策を進めたのか。また、どういった成果を上げたのかを紹介したい。

楽天:問い合わせ件数を40%減、対応コスト約35%減

開沼広樹氏
開沼広樹氏

 まず、楽天の取り組みについては、同社 渉外室カスタマーサービスサポートチームリーダーの開沼広樹氏が「楽天グループの『顧客満足度の最大化』を実現するエンジン」と題して講演した。同社では、2007年10月にRightNowを導入し、現在までに同社の約30の事業に展開、顧客満足度の向上を図っている。

 RightNowは、もともと米RightNow Technologiesが展開していたクラウド型のCRMサービス。同社は、米Salesforce.comとともにSaaSのパイオニア企業として知られており、ウェブサイト上でのFAQサービス、顧客とのチャット、コールセンターといったマルチチャネルでの顧客サポートを提供していた。2011年のOracleによる買収で、現在は同社のカスタマーエクスペリエンス関連ソリューションの1つ「Oracle RightNow CX Cloud Service」(RightNow CX)として提供されている。

 開沼氏によると、楽天におけるRightNow CX導入のステップは、導入期、活用事業の拡大期、機能の拡張期に大きく分けられる。

 導入期は2007年10月から2008年5月までで、顧客満足度を高めるためにどのような製品を導入すべきかを検討し、実際に運用を開始した期間。同氏によると、楽天では顧客サポートを各事業ごとに行っていたため、社内にさまざまなツールが混在し、ノウハウの共有もできていなかったという。そうしたなか、さまざまなCRMツールを検討し、最終的に「導入実績の豊富さ(信頼性)、複数チャネル/デバイスでのナレッジの活用(利便性)、提案解答の提示(解析機能の高度さ)、リアルタイムサーベイ機能/レポートの豊富さ(拡張性)といった特徴を持つことからRightNowを選択した」(同氏)

 活用事業の拡大にあたっては、まず楽天市場で先行して導入し、2009年4月までに順次その他の事業へ拡大するステップを踏んだ。「導入する事業は、お問い合わせの件数が多いかどうかと、特定のお問い合わせが多く寄せられる事業かどうかという2つのポイントから選定した。また、導入した事業については、KPIを設定し、事業間のノウハウの共有、コミュニケーション品質の向上をこころがけた」(同氏)という。KPIとしては、例えば1日あたりの問い合わせ件数、1時間あたりに対応する電子メールの数(MPH)、初回解決率、時間内対応率、ユーザーが自分で解決できたかどうか(自己解決率)などだ。

 2009年4月以降の機能の拡張期では、メール、電話、ウェブフォーム、チャットといったマルチチャネルサポートを展開した。一般に、電話サポートだけの場合はオペレーター1人が顧客1人に対応することになるため、対応時間やコストは顧客数の増加に伴って増えることになる。一方、マルチチャネルサポートの場合は、メールやチャットなどを組み合わせることで、オペレーター1人で複数の顧客に同時に対応することができ、参照リンクを貼り付けるといった対応も可能になるため、よりスピーディな問題解決が可能になる。

 このほか、RightNow CXに備わるユーザーアンケート機能を使って、顧客満足度のKPI測定やウィークポイントの把握、VOC(ボイス・オブ・カスタマー)の一元管理、PCやスマートフォン、フィーチャーフォン向けに最適化されたGUIの構築、ヘルプページの多言語対応(英語、中国語繁体字、中国語簡体字、韓国語)にも取り組んだ。

「結果として、1日あたりの問い合わせ件数が約40%削減、1件あたりの対応コストが約35%減、顧客対応の生産性が1.7〜2倍に向上といった効果を得ることができた。また、RightNow CXのデータをもとに、カスタマーセンターの品質、生産性、コスト、ロイヤリティを評価、測定できるようになった」(同氏)

 現在、同社はさらなる活用に向けて、海外拠点への展開、基幹システムとのインテグレーション、コンタクトセンターのプロフィットセンター化に取り組んでいる。

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