日本オラクルの遠藤隆雄社長が2008年6月に入社したとき、オラクルはソフトウェアの会社だった。
しかし、ちょうど1年後の2009年6月、オラクルはサン・マイクロシステムズを買収する。2年後の2011年10月にはパブリッククラウドへの参入を発表。ソフトウェア、ハードウェア、クラウドサービスを一貫して備えた企業に変貌した。
水平分業から垂直統合へとトレンドが(再び)移り変わりつつある今、オラクルは何を目指すのか。
1時間ほどのインタビューだったが、オラクルの課題と展望から組織や人材の考え、そして自身の仕事観まで幅広く語ってもらった。今回は「前編」として事業の課題と展望を紹介する。
--新年度の事業戦略説明会で、「Simplify IT」を説明する資料の中に「ベスト・オブ・ブリード」という言葉がありました。データセンターを複雑化させてしまったのがベスト・オブ・ブリードとも考えられますが、なぜ「ITをシンプルにする」というコンセプトにベスト・オブ・ブリードという言葉を入れたのでしょうか
日本オラクル 代表執行役社長 最高経営責任者の遠藤隆雄氏(撮影:中原希実子)
このスライドで言わんとしていることの一つが「垂直統合」です。Simplify ITを話すときによく例えるのですが、良い部品を集めて車を作っても、良い車になるとは限りませんよね。メーカーの責任ですべて組み立てて、最適な形でお届けするのがSimplify ITのコンセプトなのです。
あるお客さんにその話をしたところ、「世の中で五番手とか六番手みたいな製品を持ってきて、それを組み合わせて『これがSimplifyしたITなんです』と言われても困る」と言われました。世の中の一番良いものを組み合わせて、それで良いものを作ってくれるんだったら、と言うのです。(垂直統合された製品の)中に四番手や五番手が混じっていたら、「そこはちょっと一番手のものに変えてよ」と言われる。だから、オラクル製品全体でSimplifyしても、中のコンポーネントが少し遅れていたり、劣勢な製品があるとしたらね、それはお客さんが期待するものではないのです。
したがって、すべての領域でナンバーワンを目指す、すべての領域でベスト・オブ・ブリードになろう——それが大きな戦略のベースにあります。この考えがなければ、垂直統合したってお客様は喜ばない。ベスト・オブ・ブリードで垂直統合するからこそ、お客様は喜ぶ。そういう考え方ですね。
--それぞれのブリードでナンバーワンになることを目指すという話ですが、オラクル製品の中には、まだナンバーワンではないブリード、ベストではないブリードもあると思います
日本に限った話ですが、たとえば仮想化のレイヤーではヴイエムウェアに負けています。(Oracle VMは)決して悪くないと思うんだけど、マーケットシェアとしては負けている。セキュリティ製品が本当にナンバーワンかと言われると、そうではない。BI(ビジネスインテリジェンス)は2位か3位なんですね。グローバルではトップシェアに近いのですが、ナンバーワンではない。一番の悩みはアプリケーションですけどね。これはナンバー2と3のあたりで、SAPになかなか勝てない。
日本では、いろいろなレイヤーで、まだマーケットシェアでナンバーワンと言えないところがある。
ミドルウェアはね、今回3位になったんですよ。世界ではIBMとオラクルが拮抗しているんですけど、いや、オラクルが抜いたかな? ずっと拮抗してるんですが、たしか抜いたはずです。
日本ではどうしても、富士通、日立、NECが自社製品に載せてくるので、なかなか抜けなかったんです。それが今回、3位になったんです。間に入っているのは富士通です(笑) IBMを追い抜いて1位になるというのが、私がミドルウェアチームに言っているターゲットです。
--5月の「D10 Conference」で、CEOのラリー・エリソン氏が、ミドルウェアの部分ではIBMに勝っているとはっきり発言していました(註1)。数字や根拠は示していませんでしたが
そう、そうでしょう。ラリーがここ(オラクル青山センターの役員会議室)に来て言ったのは、「遠藤さん、やってほしいことがいくつかあるが、その中の一つはミドルウェアでナンバーワンになることだ」と。
註1:They(編註:IBM) used to be No. 1 in middleware, and we're now No. 1 in middleware. - Oracle CEO Larry Ellison: Dog Fight in the Cloud
--特にミドルウェアなんですね
そう、特にミドルウェア——アプリケーションサーバですね。
--意図としては、ミドルウェアを握れば強いからなのか、それともIBMには日本でも絶対に負けるなということなのか。遠藤さんはどう受け止めましたか