情報セキュリティの日に、レクリエーションも兼ねたセキュリティ啓発イベントを開催する理由について飛田氏は、「当社ビジネスの主要な柱のひとつが情報セキュリティ関連事業。こうしたイベントで交流を深めることで、多くの企業にセキュリティの意識を高めてもらうことが本来の目的です。このイベントは今後も続けていくことが大事だと考えています」と述べる。
日立ソリューションズの飛田正士氏(営業統括本部 営業推進本部 本部長)
2012年は政府関係や報道機関をターゲットとした標的型メール攻撃や国際的な共通思想集団による攻撃などが急増したことに触れ、「そうしたサイバーテロともいうべき事案は今後も警戒が必要で、セキュリティソリューション企業として有効な手段を積極的に提案していく考えです」(飛田氏)という。
蓄積された情報と推測を活用して時間移動が可能なWeb 3.0の時代の到来
日立ソリューションズのセキュリティイベントでは、娯楽性の高いかるた大会と同時に、セキュリティのスペシャリストによる真面目なセキュリティセミナーも開催されることが通例となっている。今回は、東京電機大学 未来科学部 学部長の安田浩氏が登壇し、「迫り来るネット脅威へのソリューションズ」と題して講演を行った。
安田氏は、画像処理や画像符号化研究などの分野で貢献し、JPEG/MPEG規格標準化での功績により1996年にエミー賞を受賞。情報セキュリティプロフェッショナルのCISSPであり、2009年春の褒章で紫綬褒章を受章している。
冒頭で安田氏は、ネット上での新たな脅威について、情報の自己蓄積、映像発信、クラウド活用、マルウェアなどの悪意のソフトウェア、BIOS攻撃、私物端末の業務利用(BYOD)への対処などを列挙する。
21世紀に入り、日本ではiモードをはじめとするモバイルインターネットの普及とともに、次世代携帯電話やユビキタスネットワーク、地上波デジタル放送網が整備され、ブロードバンド・ユビキタスインフラが完成。放送と通信の融合でマイクロコミュニティの形成と自己顕示の高揚、つまりSNSなどの新たなコミュニケーションが誕生している。
検索エンジン技術の発展とともに、興味を引きやすい情報を大量に発信するなど大衆の行動様式が変化し、映像表現ツールの一層の発展が行われた。これを安田氏は「映像情報ビッグバンスパイラル」と表現する。
「全ての人がウェブ上で理解し合うためには、映像表現ツールを使いこなし、映像を取り交わさなければならない時代になったといえるでしょう」(安田氏)
映像情報ビッグバンに対処する方法としては、巨大なアーカイブに情報を集積して、言語翻訳のみならず“文化翻訳”も行い、情報の重み付け(プライベートアーカイブ)に取り組み、安心で安全な環境で映像情報を発信する必要があるという。
情報提供者が一方的に発信する“Web 1.0”、ユーザー参加型の“Web 2.0”に続き、蓄積された情報と推測を活用して時間移動が可能な“Web 3.0”の時代が来るという。
情報を重み付けするプライベートアーカイブ
高速動作が求められる大規模アプリケーションが増え、スタンドアロン型からクラウドコンピューティング型へと環境の変化が起こっている。それを安田氏は「サービス(SaaS)クラウド+仮想個人環境(Virtual Personal Environment:VPE)クラウド」で、“プラットフォームクラウド(PFC)”と呼ぶ。しかし、PFCでの最大の課題が認証。現在のインターネットには普遍的な認証クラウドは存在しないことが問題だという。
安田浩氏(東京電機大学 未来科学部 学部長)
2012年にはさまざまな脅威が起こったが、中でもウイルス感染によるなりすましと情報漏えいが深刻化。中央省庁の端末が狙われたことも大きな話題となった。
「昔のネット犯罪は愉快犯でしたが、現在はセクト(主義主張)に基づいた攻撃や他国からの権益拡大行為が目立ちます。日本は攻撃されやすく、ガードの堅さを試されている段階。ただし、日本語自体が防御になっている側面もあるのです」(安田氏)