4大テレビ局を激怒させたディッシュのDVR端末「Hopper」
ディッシュがテレビ・映画会社から嫌われている理由は至って簡単で、一言でいうと「顧客とはいっても相当に扱いづらい相手だから」となろう。以前に触れていた通り、裁判沙汰などはしょっちゅうのこと。最近の例では、これも以前に触れたAMCネットワークとの番組配信の更新契約がまとまらず、昨年夏から秋にかけて3カ月半もディッシュがAMCの番組放映を中止していたことが話題になっていたようだ。
この紛争については、ディッシュが「AMC側が提示してきた料金の値上げは正当化できないもの」といえば、AMC側からは「料金(の値上げ)は問題でなく、ディッシュが訴えたのは、過去の裁判の仕返し(当時AMCの親会社であったケーブルビジョンとディッシュが争ったもの)」という反論が出るなど面倒な感じがありありと伺える。
結局この問題はディッシュがAMCに7億ドルを支払うことで決着したが、いずれにしてもディッシュと契約する1400万人(世帯)で人気ドラマの「マッドメン」などがしばらく観られなくなるかもしれない、ということで世間をだいぶ賑わせていたようだ。(註4)
そんなディッシュとテレビ局各社とは現在も大いに揉めている最中。その火種はディッシュが加入者に配ったDVR(録画機能付き)セットトップボックスの「Hopper」--この「Hopper」(「バッタ」)にテレビCMを自動でスキップできる機能がついていたことから、4大ネットワーク--CBS、ABC(ディズニー傘下)、NBC(コムキャスト傘下)、フォックス(旧ニューズコープ傘下)がこれに一斉に反発し、配信契約の違反にあたるとしてディッシュを提訴。
それに対してディッシュ側からは「CMを観るかどうかの選択権は消費者にある」との反論が出てこちらも裁判に発展……。というような感じである(註5)。それでなくても台所事情が楽ではないテレビ局側からすれば、そんなこと(CM飛ばし)を認めていたら「それこそメシの食い上げ」という大問題、いっぽうディッシュにとってもこのHopperを出したことで加入者が減少から増加に転じたとTHR記事にはあるから、やはり譲れない争いというところだろう。
なお今年初めのCESでは、このHopper機能が付いたSlingbox(ディッシュのSTB)をCNETが「今年の大賞」(Best in Show)に選ぼうとしていたところへ、CBS経営トップのレスリー・ムーンヴェスCEOから「裁判中の相手の製品を選ぶなどもってのほか」と圧力がかかり、急遽別の製品に差し替えられたことが明らかになり、またこれに抗議してベテラン記者がCNETを辞めたりしたことなどが、メディア関係者の間でちょっとした話題にもなっていた(註6)。
CBSをはじめとするテレビ局側がディッシュのHopperにそれだけ大きな脅威を感じている、このエピソードはそのことの表れといえるかもしれない。
アーゲンに関するTHR記事のなかには、ほかにも「AMCとの訴訟で、ディッシュが証拠になりそうな電子メールを隠滅したことがばれて、法廷からペナルティを科せられた」「ディッシュがなかなか証拠書類を提出しないことに腹を立てたニューヨーク州最高裁の判事が、ディッシュに対する調査を行うと脅しをかけてようやく書類が出てきた」など、いろいろな「FUD」のネタが並んでいる。
なかには「ディッシュの女性幹部が、法廷から退出する際に相手方弁護士の父親をひっぱたいた」などという一文もあるから、この裁判がそれだけ「揉めにもめて」いたのかもしれない(註7)。
なおこの記事にはディッシュ、スプリント、ソフトバンク3社の規模を比較した図が出ているが、それによると事業の評価額ではディッシュが210億1000万ドル(そのうち負債が46億5000万ドル)に対し、スプリント 336億ドル(同161億4000万ドル)、ソフトバンク 609億6000万ドル(同160億ドル)とディッシュはソフトバンクの3分の1強。
また2012年の年間売上高も、ディッシュが143億ドルに対し、スプリントは353億ドル、ソフトバンクは325億ドルと、半分以下に過ぎない。これだけ単純な評価額や売り上げだけで判断できるとは思わないが、それでもディッシュのアーゲンは自分よりはるかに規模で勝る相手に挑戦状を叩きつけたのだから、やはり相当の勝算があってのことかとも思えてくる。
註4
Dish dropped AMC's channels from its lineup on June 30, claiming that the network's programming, which includes "Breaking Bad" and "Mad Men," didn't justify the increased fees the TV network was demanding.
However, AMC countered that fees were never an issue and that the channels were dropped "in retaliation for an unrelated lawsuit" over Dish's 2008 decision to drop the lightly viewed Voom Networks, an independent subsidiary of AMC.
註5
Dish, TV networks duel over ad-skipping feature Dish touts new 'Auto Hop' commercial-skip featuree註7
Perhaps most notoriously, there were the irate judges who officiated Dish's recent battle with Cablevision/AMC after Dish terminated a 15-year deal to carry the Voom networks, a suite of 21 little-watched HD channels such as Kung Fu HD and Film Fest HD. In the early days of the case, Dish was penalized for "bad faith" or "gross negligence" in the destruction of internal company emails. A visibly angry New York Supreme Court Judge Richard Lowe later threatened to launch an investigation unless Dish documents were turned over. The suit became so ugly that at one point, Dish executive Carolyn Crawford hit the father of the opposing side's lawyer on her way out of the courtroom. She later apologized in open court.
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