三国大洋のスクラップブック

「ハリウッド一の嫌われ者」と呼ばれたチャーリー・アーゲン--ディッシュ会長 - (page 3)

三国大洋

2013-04-18 07:30

スプリントへの買収提案はディッシュの「危機感の表れ」か

 ところで。ディッシュ(とその議決権の大半を握るチャーリー・アーゲン)がいま置かれている状況を整理すると次のような感じになるかと思う。


有料テレビ放送(ディストリビューション)市場が飽和--全米約1億1000万超世帯のうち、ほぼ1億世帯がすでに何らかのサービスに加入しており、「コードカッター」「コードネバー」の流れも考えると、この数は減りこそすれ、大きく増加することはまず望めそうにない。

 そうしたなか、業界第3位のディッシュ(1位はコムキャストで約2200万~約2300万世帯、2位がディレクティービーで1800万~1900万世帯)が、新たな収入源を求めて、携帯通信市場に参入……

 WSJやBloombergなどでもこういう背景の説明をよく目にする印象が強い(たぶん日本のニュースでもほぼ同様ではないかと推測する)。また携帯通信事業者のソフトバンクが同業者のスプリントを買収しようとしていたところへディッシュが横槍を入れてきた……という流れからも、そんな「新規事業参入」の印象がなおさら強く伝わってきてしまうようにも思える。

 けれども、アーゲンにとってスプリントの携帯通信網を手に入れることは、単に映像コンテンツの配信手段となる「パイプ」(あるいは「土管」)の部分を新しいものに切り替えることに過ぎず、事業のコンセプト自体はさほど変わらない。

 つまり「これまでと大きく異なる、新たなものをやる」という意識はあまりないのではないか、という感じもする。放送衛星からテレビ向けに流していた(他社が制作した)番組や映画を、これからはネット/携帯通信網経由でスマホやタブレット、パソコン、そしてテレビでも観られるようにする、ということにすぎない。

 そう考えると、確かにスプリントの約5500万人とされる顧客ベースを手に入れるというのは、ディッシュにとって新たな「機会」であるものの、同時に「そうでもしないと、いまは年間10億ドル程度の利益を生んでいる現業自体が、いずれはじり貧にならざるを得ない」といった思いがアーゲンのなかにはあるのではないか。先に挙げたDカンファレンスでの会話、とくに「コードネバー」(Code Never)に関するくだりなどを観ていると、そうした思いも浮かんでくる。

 THRの記事にもこれを裏付けるような指摘がある。よく使われる英語の慣用句で「one trick pony」(一芸しかできない子馬)というのがあるが、衛星テレビしか事業の柱がないディッシュがまさにこの「one trick pony」であり、コムキャストのようにNBC Universalを買って、ディストリビューションからコンテンツ制作まで手を広げているわけでもなければ、またタイムワーナー・ケーブルやベライゾンのように有料テレビ/ネット接続/電話サービスの「トリプルプレイ」を提供しているわけでもない、という指摘がこの記事にはある。

 肌感覚でいまひとつよく分からない者(筆者)にとっては、トリプルプレイを固定回線ではなく携帯通信網(LTE)を使ってやれるようになっているという、そのことだけでもちょっとした驚きだが、これについては別の機会に改めて。

 ここで付け加えておきたいのは、LTE網の展開で競合他社に先駈けてすでに一段落ついた感のある業界1位のベライゾン・ワイヤレス--昨年末時点で全米の約9割にあたる2億7300万人をカバー--が、早ければ来年にもこのLTE網経由の映像配信サービスを始めるつもりでいるということで、CES 2013ではそのデモのために、NFL(プロ・フットボールリーグ)のコミッショナーまで引っ張り出していた。さらにこのベライゾン・ワイヤレスが、コムキャスト、タイムワーナー・ケーブルなど4社の大手ケーブルテレビ事業者と手を組んでおり、主にマーケティング関連の取り組みを進めるとしているいっぽう、同社の親会社にあたるベライゾン・コミュニケーションズではこれらのケーブルテレビ各社とほぼすみ分けるかたちで「FiOS」という有料テレビ配信サービスを提供中……。といった案配で、状況を整理するだけでも一苦労と思えるほど市場の境目がなくなっている。

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