今後の鍵を握りそうなディッシュとディズニーの契約更新
ただし、ディッシュにとってはこうした市場の合従連合の動き以上に、コンテンツ提供者(プログラマー)各社との関係のほうが気になることかもしれない。「一本足打法」の弱み、つまり配信する人気番組がなくなれば、そこですっかりお手上げになる、ということだ。
この面で、もっとも注目を集めそうなのが今年9月に期限切れになるというディズニーとの契約だろう。ただしディズニーとはいっても、映画やアニメ(の配信)が争点になる、というわけではない。最大の争点になるのはESPN--ディズニー全体でも、利益の4割弱、フリーキャッシュに至っては半分以上を稼ぎ出す同社のスポーツチャネルの存在である。
ESPNは、ケーブルテレビ事業者や衛星テレビ放送各社から加入者1件あたり5ドルを超える破格の収入を得ているとされるが、それだけ消費者の間で人気が高いということの表れともいえよう。THR記事では御丁寧に「ESPNの番組が観られないとなったら、そのテレビ配信サービスを解約する」と答えた回答者が35%もいた、というある調査の結果を引用している。
以前の記事にも記したとおり、スポーツ中継の仕入れコスト(放映権のライセンス料)は高騰しているから、手強い交渉相手として知れ渡るディッシュが強気の条件を言ってきたとしても、ディズニーとしては簡単に譲歩するというわけにもいかなだろう。
だとすると、この交渉がすぐにまとまる可能性はかなり低い。「ディッシュは交渉のテーブルにつくより先に法廷に駆け込む」とTHRが記しているが、実際にこのESPNとの件でも、ディッシュがESPNを訴えた裁判が今年2月に始まっていたりもする。
またディッシュとしては、ディズニーからできるだけよい条件を引き出すためにも、交渉の際に使えるレバレッジ--つまり加入者の数を大きくしておきたいはずだ。その数字が現状の1400万人か、それともスプリントの加入者5500万人を加えた7000万人かでは大きな違いが出ることはいうまでもない。
また、仮にディッシュがスプリントを手に入れることになったとしても、スポーツ中継をはじめとする人気番組がディッシュ/スプリントでは観られないとなったら、サービス全体の魅力(価値)が大きく低下することも容易に想像がつく。
さらに、この映像コンテンツのライセンスをめぐるプログラマー各社との交渉がもつれ、再び番組配信の停止などといった事態が起こるようだと、ディッシュ側で現業の顧客離れが生じてしまい、同社がスプリント買収提案のなかで「自分たちの提案のほうが優れている」理由のひとつとして挙げていた「すぐにでもキャッシュを生み出せる力」がそもそも怪しくなってくる……。
そう考えてくると、スプリントの経営権獲得をめざすソフトバンクにとっては、このハリウッド各社のディッシュに対する出方が案外大きな影響を及ぼすことになるのかもしれない、といった気もしてくる……。ふだんあまり馴染みのない米メディア・エンターテイメント業界の動きだが、今後も随時紹介していければと考えている。