ポイントはAppleのエコシステムだ。これまで、エレガントな工業デザイン、革新的なOS、そしてトップクラスのハードウェアだけでは、WindowsユーザーをMacに切り替えさせることはできなかった。しかしAppleの新しい「iOS」と「OS X」の組み合わせは、WWDC参加者へのコンビネーションパンチであり、Windowsからの転向者を狙い撃ちにしたものだった。
サンフランシスコで開催された年次開発者会議WorldWide Developers Conference(WWDC)では、米国時間6月10日にAppleの役員が基調講演を行い、Macの最新のノートPCと発売予定の「Mac Pro」を披露すると同時に、次のバージョンのOS XとiOSの概要を語った。ここ数年、WWDCではMacが不遇の扱いを受けている感があったが、今回の雰囲気は、Macプラットフォームを同社の言う「Appleのエコシステム」に組み込もうとする新たな動きがあるように感じられた。
4月に開催されたいくつかのカンファレンスで、Appleの最高経営責任者(CEO)Tim Cook氏は「エコシステム」という言葉を曖昧に使っており、この言葉で「iPadのエコシステム」市場やクラウドサービスの利用を指していた。しかし、WWDCのデモンストレーションから、Appleのエコシステムとは、Appleのハードウェア(モバイルデバイスとコンピュータの両方)、AppleのOS(OS XとiOSの両方)、Appleのソフトウェア(Appleおよびサードパーティのもの)、「iCloud」のサービス、そして同社のオンライン店舗および実店舗を緊密に統合したものであることが明らかになった。
この豪華なテクノロジの組み合わせは、現在WindowsマシンでApple製品を使っている、潜在的な「転向者」を正面から狙ったものだ。Appleはなにしろ、世界最大のWindowsソフトウェア開発会社の1つなのだ。WindowsユーザーはAppleのiOSプラットフォーム利用者の大半を占めているが、Appleはこの層に対して、Mac陣営に参加し、Appleのエコシステムの完全なメンバーになるべき理由を提供しようとしている。
私の目を引いたのは、iOSのモバイルデバイスと、Macのアプリケーション、そしてiCloudサービスを統合する、数多くの新要素だ。この方向性は、ブックマークのiCloud統合、Appleプラットフォーム間でパスワードを同期するセキュリティシステム「iCloud Keychain」、「OS X Mavericks」の通知機能、カレンダーイベントのマップデータを統合し、それをデバイス間で共有する機能などに明白に現れていた。180万冊の「iBooks」は、間もなくMacで読めるようになる。
また、iOSのアプリはMacに直接通知を送れるようになるし、その逆もできるようになる。Macでレストランを調べると、その場所の情報が魔法のようにカレンダーに追加され、地図、行き方が付加され、通知も行われる。そのすべてが、デバイス間で自動的に同期されるようになる。このAppleのエコシステムは、モバイルとデスクトップのコンピューティング環境を、継ぎ目なく統合したワークフローに近づきつつある。