なぜビッグなデータが必要なのか--不足するデータサイエンティスト - (page 3)

忌部佳史 (矢野経済研究所)

2013-07-18 07:30

 二つ目には、誤記入のようなレアな情報までをも活用するケースだ。有名なのはグーグル の「もしかして検索」があげられる。グーグルで検索する際、入力キーワードを間違えると、「もしかして○○」といった表示がでる。これはユーザーの誤った文字を記録しているからこそ可能となったサービスといえる。従来のようにクリーニングして保存していたら、こうしたサービスは実現できなかっただろう。

 三つ目に、クレジットカードの不正利用検知などが挙げられる。不正利用検知とは、イレギュラーな利用をしていると、それを犯罪の可能性のある動きと認識し、警告を発するというものだ。不正利用の発生割合はおそらく相当に低いものだろうから、サンプル調査では、不正利用者のデータを取りこぼす可能性もある。となれば、全データを対象に、全利用者を監視することが十分な効果を発揮するために必要なことといえるだろう。母集団が小さければ問題ないが、大きい場合はビッグデータ技術を使わざるを得ない。

ビッグデータにどう向かうべきか

 ビッグデータから火が付いた統計解析であるが、実際のところ、ペタバイトクラスのデータを所有する企業はわずかでしかない。矢野経済研究所の調査でも、企業が所有するデータ量はおおむね5Tバイト近辺が中心であり、ほとんどの企業ではビッグデータ技術は必須のものではないだろう。

 それよりも、データ量とは無関係に、図でいえば左下や右上にあたる対応ができる人材、つまり統計解析に長けた人材を育てることの方が重要と考える。昨今では広くデータサイエンティストの不足が指摘されているが、矢野経済研究所でも同様の認識を持っている。彼らがいなければ、いかにデータを貯め込んでも、それはゴミでしかない。彼らの育成は急務だ。

 同時に、今後は統計解析関連ソフトのコモディティ化に期待したい。ソフトウェア側の発展により、統計解析に関わる人材層を厚くすることも可能であろう。そうなれば、優秀な中間層を持つ日本において、ツールを使いこなすことでビッグデータ時代を生き抜くことも可能になるだろう。

 もちろん、すでにそうした人材を抱え、具体的に大量データの分析へと舵を切った企業については、ビッグデータ時代という新たなフロンティアへ向け、ぜひ大いなる可能性を示してほしい。日本をリードする企業には、そうした役割が求められている。

2013 解析・分析ソリューション市場の展望 -ビッグデータ時代の注目市場-

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忌部佳史
株式会社矢野経済研究所 情報通信・金融事業部(YanoICT)主任研究員 

矢野経済研究所 情報通信・金融事業部(YanoICT)のURL

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