アナリストの視点

「モノのインターネット」拡大期へ--多様な用途が期待されるワイヤレスセンサーネットワーク

早川泰弘(矢野経済研究所)

2013-11-12 06:30

 矢野経済研究所では、2013年に入ってワイスレスセンサーネットワーク(WSN)に主眼を置いた関連レポートを発刊した。まず、2013年2月に国内事業動向と中期市場予測を行なった「センサーネットワークの将来展望」を、さらに同年7月には海外事例研究に絞った「海外センサーネットワーク事例の徹底研究」を発刊した。

 なお、当研究所では、WSNを「センサーを始めとした各種要素技術と通信ネットワーク、ソリューションを組み合わせて提供される無線ベースの情報インフラで、自律的な情報収集機能及び情報解析機能を有する仕組み」と規定した。

 WSNはリアルタイムでの多点同時計測が可能であり、物理現象や状態分布変化などを把握することには特に有効とされる。そのため気象観測や環境観測、自然監視などでは大きな期待が持たれる。またWSNの導入で大幅な配線削減/設置工事の簡略化が可能となるため、建物ヘルスモニタリングや社会インフラ監視、エネルギー管理などにも用途が広がっている。そのほかにも自動車関連や産業分野、人や家畜でのヘルスケア監視用途なども有望視されている。

 日本においては、気象観測や産業計測、自動車/交通インフラ、さらには食品工場でのHACCP(製造工程での温度管理など)といった仕組みもあり、センサーネットワーク的なシステムは以前から存在していた。また海外(特に欧米先進国)では、軍事用を除くと、要求される計測データ要件が明確でWSNにフィットするジャンルとして自然・環境監視での利用が早くから行なわれていた。さらに自動車/交通インフラ、エネルギー管理、ヘルスケア、農・畜産業界などもWSN適用分野として想定されている。

 次に、WSNの導入目的/ターゲットなどを踏まえた上で、その導入効果(予想される効果なども含む)を整理・要約すると以下のようになる。

  • 省力化/効率化/生産性向上:モニタリングや情報収集の自動化、省人化・業務フローの効率化
  • リアルタイム化:リアルタイムな情報収集、情報収集の迅速化、ビッグデータとしての価値向上
  • 大規模化:収集情報の膨大化、ビッグデータとしての価値向上
  • モニタリングの高度化:目視・人力によらない長期・常時監視、維持管理/メンテナンスの省力化
  • マネジメント支援:収集情報のマネジメント業務への反映、情報解析/マネジメント支援機能
  • 利便性向上:(有線式システムに比べて)配線やデータロガーなどの機器が不要 (有線式システムに比べて)廉価&短時間設置が可能

将来的にはスマートコミュニティ/スマートシティ実現でのプラットフォーム化を期待

 WSNは今後、新たな社会のプラットフォームになると判断される。それは情報プラットフォームであるとともに、コミュニケーションプラットフォームでもある。併せて仕組みとしての柔軟性を高めることで、WSNを基盤とした新たなサービス/ビジネスの創出も期待できる。

 具体的には、WSNを基盤としてM2M及びビッグデータと連なる仕組みを導入することで、全く新しい付加価値を生むことが期待される。そしてこの仕組みにより、将来的に組織・社会・体制を大きく変革する事も期待されており、直近でのインターネットやSNSの普及に次ぐ社会変革の起爆剤と見る向きも少なくない。

 このような観点からすると、将来的なWSNの位置づけはスマートコミュニティ/スマートシティを実現する上での基盤の一つとなることが期待される。

国内ワイヤレスセンサーネットワーク市場の中期展望(2015~2020年予測)

 日本国内でのWSN市場(累計)を、WSNシステム数ベースで予測している。ここで対象としたカテゴリーは、「農業・施設園芸、畜産業、林業、水産業、橋梁、鉄道、高速道路、道路トンネル、信号機、河川、火山、ヘルスケア、エネルギー関連、小売店・商業施設、都市防災、防犯・セキュリティ」などで、各カテゴリーにおけるWSNシステムの導入数予測を積み上げた。

 2015年では、スマートメーターの導入に起因したエネルギー管理がマーケットを牽引。その後、2020年にかけては社会インフラや農業、ヘルスケアといったさまざまなカテゴリーでWSNの導入が進み、累計で6352万システムの普及を見込む。タイムスケジュールは以下の通り。

短期 エネルギー関連や一次産業、社会インフラ、防災分野などを中心に浸透

中期 一般産業分野やヘルスケア/健康管理分野が拡大

長期 パーソナル向けサービス/ビジネスも創出されてくると予想


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