まずはツールを入れてみる
SAPジャパンの馬場渉氏(バイスプレジデント クラウドファースト事業本部長)は、これまでの需給プロセスについて「大部分は人間間の連絡によるものだった」ことを強調。原氏が言うところの“メールとExcel”をベースにしていたのである。また、企業内で製販を調整するためのものとして会議体も存在していたが、実質的に「部門の壁を越えるものではなかった」(馬場氏)という。

SAPジャパン ソリューション本部 アプリケーションエンジニアリング部 ビジネスエンジニアリング ダイレクター 原尚嗣氏
「仕組みそのものがなかった。需給のプロセスを変えることはできなかった。(S&OPは)ソーシャルコラボレーションを中心にして、その仕組みを作る」(馬場氏)
以前から企業の現場では、S&OPのようなシステムの「必要性は感じていた」(原氏)。だが、効果的なシステムがなかったために、需給プロセスを効率化する仕組みを構築できなかったと指摘している。「ERPのような基幹系システムと人間系のツールであるExcelの間を埋める」(馬場氏)と、S&OPが必要とされる意義を強調した。販売や製造など「各部門間を調整するのは昔から複雑な業務」(馬場氏)。
SAPジャパンでは、S&OPのターゲットとして「生産計画会議に出席する」(馬場氏)ような需給計画の立案者、営業部門でCRMを担う担当者などの現業部門、加えて、資金の視点で業務を見る財務部門も想定している。IT部門ではサプライチェーンの実際の細かいところまで理解できていないからだという。
今回のS&OPは、SAPジャパンがこの6月に明らかにしたクラウド事業の本格展開の一環になる(同社が提供するSaaSはJamが基盤となっている)。馬場氏はクラウドのメリットとして「デプロイのスピードが素早い」ことを挙げている。

SAPジャパン バイスプレジデント クラウドファースト事業本部長 馬場渉氏
「1年をかけてクラウドかオンプレミスかを検討するよりは、まずクラウドを使ってみた方がいい。その上でパッケージでオンプレミスに導入する、あるいはスクラッチで作ることを選択すべき。クラウドしかないことで、システムをどうするかという判断のスピードも速まる」(馬場氏)
S&OPのような業務効率化のツールは、業務との関係をどうするか、迷うところだ。例えば、業務にあわせてどのようにツールを使いこなせばいいのか、ツールがもたらす機能と実際の業務とのフィット&ギャップをどうやって埋めていけばいいのか――などだ。この疑問に対して馬場氏は「まずはツールを先に入れた方がいい」と断言した。
「業務在りきでは数カ月かかってしまう。ツールを導入して、とにかくやってみた方がイノベーションは進む。FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアを使う前は、コミュニケーションがどのように変わるかは分からなかった。だが、実際にソーシャルメディアを使ってみると、明らかにコミュニケーションの質は変わった。まずはクラウドを導入して使ってみてから考えていけばいい。そうした事例をよく見てきた」(馬場氏)