通信のゆくえを追う

通信キャリアとパケット定額--その光と影

菊地泰敏(ローランド・ベルガー)

2013-09-03 07:30

 これまでの連載で通信事業者(キャリア)、端末、OTT(Over The Top)についてそれぞれ個別に考えてきた。前回は、消費者(ユーザー)に対しキャリアのサービスの利用を促す存在であるOTTが、キャリアと反目する存在であることを述べたが、今回はその原因について考えてみたい。

 第3回の終わりで述べた通り、通常であれば自分が提供しているサービスの利用を促してくれる存在はありがたい。しかしながらキャリアとOTTとの間ではこの関係は成り立たない。理由はまったくもって単純である。ユーザーがOTTのアプリケーションを利用することでキャリアのネットワークを利用したとしてもキャリアの身入り、すなわち売り上げは増えないからである。

 スマートフォン(スマホ)ユーザーの、ほぼ100%がキャリアの提供する定額制サービスを利用している。定額であれば、ユーザーにしてみれば使おうが使うまいが支払額は変わらないため、特に利用を制限しようというインセンティブは働かない。それどころか、暇つぶしにスマホでOTTのサービスを利用する(ネットワークにアクセスする)というインセンティブが働く。さらに、スマホをモバイルルーターとしてテザリングサービスを利用しているユーザーも増えている。

 

 もし定額制サービスを利用していなかったとしたら、つまり従量課金のままであればいくらくらい請求されるのであろうか。キャリアからの請求明細を見て欲しい。昨今では、これも紙媒体ではなくウェブで提供されている場合がほとんどであり、それゆえあまり明細を見る機会がないのではないだろうか。注目すべきは、パケット通信料(データ通信料)という請求項目である。

 パケット通信料として、(もちろん人それぞれ、月によってもそれぞれではあるが)20万円あるいは50万円といった高額の請求が立っているであろう。そして、その次の行には定額制により同額がマイナス請求されているはずだ。そして実際の定額の支払いはおおむね5000円程度である(3GかLTEか、そしてiPhoneかそのほかのスマホかにより異なるが)。この倍率(計算上の請求額÷実際の定額支払額)を計算すると、(上記の例であれば)40倍から100倍となることが分かる。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ホワイトペーパー

新着

ランキング

  1. セキュリティ

    「デジタル・フォレンジック」から始まるセキュリティ災禍論--活用したいIT業界の防災マニュアル

  2. 運用管理

    「無線LANがつながらない」という問い合わせにAIで対応、トラブル解決の切り札とは

  3. 運用管理

    Oracle DatabaseのAzure移行時におけるポイント、移行前に確認しておきたい障害対策

  4. 運用管理

    Google Chrome ブラウザ がセキュリティを強化、ゼロトラスト移行で高まるブラウザの重要性

  5. ビジネスアプリケーション

    技術進化でさらに発展するデータサイエンス/アナリティクス、最新の6大トレンドを解説

ZDNET Japan クイックポール

注目している大規模言語モデル(LLM)を教えてください

NEWSLETTERS

エンタープライズ・コンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]