これまでの連載で通信事業者(キャリア)、端末、OTT(Over The Top)についてそれぞれ個別に考えてきた。前回は、消費者(ユーザー)に対しキャリアのサービスの利用を促す存在であるOTTが、キャリアと反目する存在であることを述べたが、今回はその原因について考えてみたい。
第3回の終わりで述べた通り、通常であれば自分が提供しているサービスの利用を促してくれる存在はありがたい。しかしながらキャリアとOTTとの間ではこの関係は成り立たない。理由はまったくもって単純である。ユーザーがOTTのアプリケーションを利用することでキャリアのネットワークを利用したとしてもキャリアの身入り、すなわち売り上げは増えないからである。
スマートフォン(スマホ)ユーザーの、ほぼ100%がキャリアの提供する定額制サービスを利用している。定額であれば、ユーザーにしてみれば使おうが使うまいが支払額は変わらないため、特に利用を制限しようというインセンティブは働かない。それどころか、暇つぶしにスマホでOTTのサービスを利用する(ネットワークにアクセスする)というインセンティブが働く。さらに、スマホをモバイルルーターとしてテザリングサービスを利用しているユーザーも増えている。
もし定額制サービスを利用していなかったとしたら、つまり従量課金のままであればいくらくらい請求されるのであろうか。キャリアからの請求明細を見て欲しい。昨今では、これも紙媒体ではなくウェブで提供されている場合がほとんどであり、それゆえあまり明細を見る機会がないのではないだろうか。注目すべきは、パケット通信料(データ通信料)という請求項目である。
パケット通信料として、(もちろん人それぞれ、月によってもそれぞれではあるが)20万円あるいは50万円といった高額の請求が立っているであろう。そして、その次の行には定額制により同額がマイナス請求されているはずだ。そして実際の定額の支払いはおおむね5000円程度である(3GかLTEか、そしてiPhoneかそのほかのスマホかにより異なるが)。この倍率(計算上の請求額÷実際の定額支払額)を計算すると、(上記の例であれば)40倍から100倍となることが分かる。