米Dellは、米国時間9月12日に開催した臨時株主総会で同社最高経営責任者(CEO)のMichael Dell氏と投資会社のSilver Lake Partnersによる買収案を承認したと発表した。
買収金額は約249億ドル(約2兆5000億円)となり、株主に対しては1株当たり13.75ドルに0.13ドルの特別報酬を上乗せた13.88ドルが支払われることになる。
2月にDell氏による買収提案が行われ、取締役会で承認されたものの、未公開株(プライベートエクイティ、PE)を対象にした投資会社のBlackstoneとCarl Icahn氏の2者から対抗案が出されており、特に“モノ言う株主”としても著名な投資家のIcahn氏による買収対抗案は、9月上旬に同氏が買収提案を取り下げるまで、7カ月にわたって買収合戦が繰り広げられることになった。
今回の臨時株主総会での非公開化の提案承認で同社の2014年度第3四半期(2013年8~10月)までに、Dell氏とSilver Lakeによるマネジメントバイアウト(MBO)が実行されることになり、非公開企業となる。
Dellの存在感
Dellは、1984年の創業から29年目を迎えている。「企業30年説」という言葉があるが、Dellはまさにその節目を迎えようとしている。
創業時から直接顧客に販売する「デルモデル」によって成長を遂げた同社は、PC市場で世界ナンバーワンシェアを持つ企業に成長。PC時代の成功企業のひとつに位置付けられた。
だが、ここ数年、Dellは追う立場へとポジションが変わっていた。
例えば、タブレットやスマートフォンが急速な勢いで普及する中で、Dellは、PC中心のビジネスから抜け出せなかったのがそのひとつだ。特にスマートフォンに関しては、一度製品投入をしたものの、現時点では、スマートフォン事業からは事実上撤退している状況である。
タブレットについても存在感は薄い。PC市場では最先端の事業スピードを誇ったDellが、タブレットやスマートフォンでは、事業スピードを失ったと言わざるを得ない。
もうひとつは、今後の主軸と位置付けるエンタープライズビジネスでも、他社の後塵を拝した点だ。
クラウドビジネスや垂直統合型といわれるコンバージドシステムでも、他社に先行を許し、この分野におけるDellの存在感は薄い。
クラウドビジネスでは、Googleをはじめとして、Dellのサーバを活用するプロバイダーは数多く、「クラウドを運用しているアプリケーションプロバイダーや検索サービスプロバイダー、クラウドホスティングプロバイダーでは、その50%がDellのサーバ、ストレージ、ネットワーク上で、サービスを運用している」とするが、いずれもバックエンドサービスでの実績に留まっている状況だ。また、OracleやIBM、NECといったエンタープライズで実績を持つ企業が相次いで投入した垂直統合型システムでも、Dellはようやく製品を投入した段階にある。
こうした遅れは、意思決定やスピード感を発揮できない体質が問題といえる。その一因が公開企業であった点だと、同社では説明する。
8月下旬に来日した米デルのナンバー2である、米Dell プレジデント兼最高コマーシャル責任者(Chief Commercial Officer:CCO)のSteve Felice氏は「なぜDellは非公開化を目指したのか」という筆者の質問に対して、「Dellが変革し、舵を大きく切る中でその成果を出すには、公開企業のままではどうしても時間がかかると考えたためである」と前置きして、こう語った。
米Dell プレジデント兼最高コマーシャル責任者(CCO) Steve Felice氏
「変革を優先すれば、四半期ごとの業績にも変動が出てくることは避けがたい。だが、米国の上場企業は、毎四半期に安定した業績を上げることが求められ、厳しい目にさらされている。それは、迅速に変革を進める上で大きな壁となる。迅速な変革にはプライベートな企業である方が推進しやすいと判断した。目先の一時的な業績回復だけにとらわれずに、長期的な視点で最善の判断が何かということを考えた結果」
そして、「Michael Dellは会社をきちんと変革させ、エンドトゥエンドの会社になり、長期的な成長を遂げるという狙いから非上場化を決断した」とFelice氏は説明した。
非上場化で業績が開示されなくなり、Dellの正しい姿が顧客からも見えなくなるという懸念については、「業績に関して何も発表しないというわけにはいかない。何らかの形でDellがどんな状況にあるのかということは、適宜開示する。その点では安心してもらっていい」と答えた。