期待される魅力ある画像解析
同レポートでは、ネットワークカメラ市場における日本メーカーの可能性についても分析した。すでに先進国における監視カメラ市場にはアジアメーカーの低価格製品が参入してきている。したがって単純な価格競争になった場合、人件費の高い日本メーカーはとてもかなわない。そこで何らかの付加価値により、価格以外のところで差別化しなければ世界で生き残れないという、厳しい現実に直面しているのが、日本の監視カメラ業界だ。
その次世代を担う付加価値として注目されているのが、Video Content Analysis(VCA)=画像解析システムである。同システムの機能はHDDに記録されたテラバイト級の大容量カメラ映像の中から、必要な部分だけを瞬時に取り出して人間に見せれる「映像検索エンジン」だ。
この機能により、監視員はこれまでのように何時間もビデオを見続ける必要はなく、立入禁止エリアへの侵入者を関知したブザーが鳴った場合のみ、ビデオを見ればよくなった。さらに進歩した画像解析アプリケーションとしては、データベースに登録されている犯罪者の顔と認識された場合のみ、拡大映像が記録される顔認証、店舗内の男女や年齢層を踏まえた上で人の流れを解析する人流計測、駅のホームでもみ合う人間の動作から、いち早くけんかなどの混乱を察知して駅員に伝える異常行動検知がある。工場の製造ラインから大幅にはずれた場所を移動する工員を検知して無駄な動作をチェックする工場向け動線解析もある。このような多彩な画像解析システムが開発されてきた。
単なる監視カメラとしての需要ばかりでなく、店舗でのマーケティングや効率的な生産活動を推進させる目的として、カメラは進化してきた。こうした画像解析システムのニーズは、とりわけ米国で拡大している模様。「多少の誤認があっても全体的に役立てばいい」「面白い!」という米国人の大まかさや、面白がり具合が導入の追い風となっているという。
比べて日本ではなかなか売れない。どうやら日本人は完璧な「画像解析・画像認識技術」を生真面目に追求しすぎ、それが災いしているようだ。「少々でも誤認があるとダメ」「何か間違いがあってはいけないので使えない」ということで、導入が進まない。日本人の生真面目な気質は、自動車やデジカメなどの製品をより高いレベルに押し上げるためには有意義だったが、画像解析システム普及のためには逆風となってしまったと言える。
しかしながら、今後、画像解析システムがより魅力的なものになっていくのであれば、日本企業の導入意欲も増大するはずである。日本人は生真面目である反面、魅力的な製品に対しては、少々高額であろうともかまわず消費へと突き進む性質を持つのだから。それはガラパゴスと呼ばれつつも、世界に類を見ない「カーナビ」「iモード」など巨大な独自市場を構築してきたことは歴史が証明しているではないか。
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- 森 健一郎
- 株式会社矢野経済研究所 情報通信・金融事業部(YanoICT)主席研究員