現在、企業で活用するクライアント端末は大きな変化の中にある。スマートフォンやタブレットといったスマートデバイスの普及から、必ずしも、これまでのPCではなくても、業務を回せることに誰もが気付き始めた。そうした潮流の中で、喫緊の課題として「Windows XP」のサポートが来年4月に終了することが挙げられる。
こうした事実から、企業はクライアント端末の在り方を問われるている。Windows XPの後継である「Windows 7」「Windows 8」をOSにして、ファットクライアントであるPCを使い続けるのか? それとも、クライアントの機能をサーバに仮想化して、シンクライアントから使うという仕組みを取るのか? PCは使い続けるにしても、スマートデバイスを併用するのか?
クライアント端末の在り方を考えるのは、それを使うエンドユーザーにどういう働き方をしてもらいたいのかを考えることに直結する。ワークライフバランスという視点で考えると、在宅勤務という形態も考慮する必要が出てくる。さらには、この1~2年で注目される、私物端末の業務利用(BYOD)もあり、クライアント端末の在り方について、IT部門が考慮すべき事柄が尽きることはない。
10月にガートナー ジャパンが開催したイベント「Gartner Symposium/ITxpo 2013」で、米Gartnerの最上級アナリストであるKen Dulaney氏(リサーチ部門バイスプレジデント)は、「大企業の9割がWindows 8をパスする」という大胆な予測を明らかにしている。そのDulaney氏に、スマートフォンを中心にクライアント端末を取り巻く環境の変化を聞いた。同氏はBYODについて「サポートを減らしたいために許可している」と背景を説明した。
Gartner バイスプレジデント 最上級アナリスト Ken Dulaney氏
ハードとソフトは分離していく
――米国ではシリコンバレーを代表に西海岸と東海岸でBYODの意識に差があると聞く。実際にそうなのか?
確かに、シリコンバレーではゆるいBYODが主流であるのに対し、東海岸では個人用モバイル端末の業務利用に厳しい傾向があるようです。ただし、最近は変化が起きています。それは、企業がBYODをコントロールできなくなってきているということです。
BYODについて、世界の企業を対象に調査したレポートでは、BYODを許容している企業は69%であるのに対し、禁止している企業は31%でした。しかし内訳を見ると、絶対に禁止としている企業は16%と少ないのが現状です。
2016年になれば、BYODを導入する企業はもっと増えるでしょう。スマートフォンについては、2020年には90%になるとみています。ただし、ノートパソコンはもう少し時間がかかるでしょう。
――企業内でスマートフォンなどを業務に活用する際に必要とされるのがモバイル端末管理システム(MDM)だ。BYODが許可されたとしても「社外でiPhoneをなくしたら、リモートですべてのデータを消去する」となり、私物端末の持ち込みを躊躇する従業員もいると聞く。現在の一般的なMDMはBYODに有効ではないのではないか。
最近のスマートフォンには、ソフトウェアをコンテナ化する機種が出てきました。ソフトウェアは“バブル(泡)”と呼ばれる実行環境で動作し、バブルは暗号化されています。つまりは、ハードウェアとソフトウェアの分離が可能であり、それがスマートフォンの将来の姿であるといえます。バブルを作ることで、MDMもほとんどのBYODに対応できるようになります。
現状では、“ハードウェアは信頼できるものではない”という問題があります。しかしバブルは信頼でき、ハードウェアと分離できるので、ハードウェアの信頼性は関係なくなり、BYODはさらに進むと考えられます。従来は企業側がハードウェアを所有していました。そのためハードウェアは信頼できるものでなければなりませんでした。
しかし、バブルはコンテナ化しているので、ハードウェアは信頼できないものでもいい。つまりBYODでもいいというわけです。
バブルによって、端末管理に大きな変化が起きています。ハードウェアが分離することで、IT部門はパソコン、スマートフォン、タブレットはすべて“エンドポイント”と呼ぶようになるでしょう。なぜなら、バブルでソフトウェアとハードウェアは分離され、どのハードウェアがいいのか選ぶ必要がなくなる。IT部門は、外観が違っても“エンドポイント”としてひとつの管理体制、ユーティリティですべてカバーできるようになるのです。それが企業がモバイル活用の将来の姿になります。
――“Firefox OS”はどうか?