前編では「Appleがまだテレビ分野進出を諦めていないのではないか」という推測があること、Comcast/Time Warner Cable(TWC)やAT&T/DirecTVなど、ここに来て米市場でかなり大規模な合併の話が浮上している、ということを記した。
テクノロジ系企業がウェブ経由の映像配信サービスをやろうとする上で、コンテンツの提供者となるハリウッド(コンテンツをもつメディア企業)との関係、あるいはそのハリウッドに対するケーブルテレビ(CATV)事業者/電話会社の影響力は無視できず、最近ではさらに「ウェブでの『有料高速車線』設置を認めるかどうか」という議論――「ネットワーク中立性」と関わる「paid prioritization」の問題も改めて浮上してきているので、話はさらに面倒になっているが、今まではハードウェアの販売でマネタイズしているAppleのような企業にとっても、これらの話を避けて通れるとは思えない。
後編では、そういう面倒な話について、「Appleがどうすれば上手を取れそうか」などという点から少し考えてみる。
AT&TのDirecTV買収で「条件」とされたNFLの放映権
AT&TのDirecTV買収話でもうひとつ目を惹いたのは、AT&Tが契約条件の中に「まもなく期限切れを迎える(プロフットボール)NFLの放映権契約を更新できなかったら、DirecTVの買収を考え直すかもしれない」とする条項を盛り込んでいるという点。
NFLの放映権というのはやたらにややこしい――契約相手(試合を放映できるテレビ局)が曜日ごとに違っていたり、全国放送のほかに地域限定のものがあったり、プレイオフやSuper Bowlがまた別立てだったりなどで、いまだによくわからないところもあるが、それでも2013年の合計がざっと40億ドルということで、年間100億ドル(1兆円)規模の巨大産業になったNFLにとっても収入の大きな柱であることはすぐにわかる。
また2013年まで年間約31億ドルだった大手4局――CBS、Fox、(Comcast傘下の)NBC、(Walt Disney傘下の)ESPNからの放映権料が、2014~2021年には年間約50億ドルにつり上がった、という話も割とよく見かける。
DirecTVが「NFL Sunday Ticket」に関してNFLに支払っているライセンス料はいまのところ年間約10億ドル。そしてこの契約が2014~2015年シーズン終了後に期限切れ(更新時期)となる。
この「NFL Sunday Ticket」がほかと違うのは、加入者がシーズン中の日曜日に行われる試合をどれでも観られる(ただし居住地の市場は除く)というところで、そのため年間の視聴料は約200ドル、しかもそういう高額の料金を支払っている加入者が少なくとも200万人(世帯)はいる、というのだからちょっと驚いてしまう(視聴料だけでは年間4億ドルと、仕入れコストの10億ドルにはまったく届かないが、当然それ以外に広告収入もあるはず…と思って検索してみたが、残念ながら具体的な数字は見つからなかった)。
この「NFL Sunday Ticket」の放映権、今度の契約更新では年間15億ドルくらいまで値上がりするのではないか、といった話が2013年あたりから出ていて、「懐具合がそれほど楽ではないDirecTVが、契約更新を諦める(権利を手放す)のではないか」という見方も一部で流れていた。それだけ値上がりするという根拠は、先に契約更新した大手4局でやはりそのくらい高騰していたから、というもの(たとえば、Foxでは7億ドルから11億ドルへ、ESPNでも11億ドルから19億ドルへとそれぞれ値上がりしている)。
AT&TがDirecTVの後ろ盾につくとなれば、このお金(放映権料)に関する心配はなくなるはずだが、あいにくと買収完了前にDirecTVはNFLとの交渉を済ませていかないといけない(AT&TのDirecTV買収は、実現するとしても1年くらいかかるとの見通し)。そうした事情から、AT&TがDirecTVにある意味で「(交渉を)しくじるな」とハッパをかけた、ということだろう。
実はこの「NFL Sunday Ticket」の放映権については、2013年夏に旧AllThingsD(現Re/code)のPeter Kafka(メディア分野担当のベテラン記者)が「テクノロジ系の大手企業が本気で“Over The Top(OTT)”の映像コンテンツ配信サービス(ライブ放送を含む)を実現したいと思っているなら、NFL Sunday Ticketの放映権を手入れるべき」と書いていた。この記事の冒頭には「Tim(Cook)、Larry(Page)、Steve(Ballmer)、Jeff(Bezos)の各位へ」とある。
そういう性格の「NFL Sunday Ticket」を、コンテンツの配信チャネル(ディストリビューションのインフラ)を押さえるAT&Tが手にすることになったとする。その時、いわゆる“コードカッター”の流れに乗る形でのOTTサービスを視野に入れているとされるApple、Google、Microsoft、Amazonなどは、どういう選択肢が残されるか。
この問いに対する答えを難易度の順番に並べていくとすると、
(1)儲けを度外視して“存在感(接点)の拡大”だけにまずは専念する
あたりがまず思い浮かぶ(Amazonがすでに「Fire TV」でやっていること)。
次に思い浮かぶのは
(2)あまり旨味のないセットトップボックス(STB)ベンダーとなる
(3)ほかに儲けが出せる部分を用意する
で、Microsoftの「XBox Live」はこの組み合わせにあたるかもしれない。さらに
(4)OTTだけでもやっていけるように(交渉材料として)「独自製作番組」を用意する
というのはテレビドラマ「House of Cards」を製作、配信したNeflixが代表例であり、AmazonやMicrosoft、それにYahoo!(US)でも、これに追従するような動きが始まっている。ただし、最近ではNetflixから提供を受けて「House of Cards」を放送することにしたCATV事業者の話も出てきているので、ここでも徐々に従来の区分が意味を失い始めているのかもしれない。