三国大洋のスクラップブック

「アップルがディズニーを買う日」は来るのか(後編) - (page 2)

三国大洋 2014年05月27日 08時00分

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 それに対して、ライブ放送も含めてOTTサービスとなると話は桁違いに難しくなる。ライブ放送をネット経由で(モバイル端末で)視聴できるとしても、基本的にCATV/衛星テレビ加入者向けが前提だし、そういうことを変則的に実現している「Aereo」という新興サービス(簡単にいうと「クラウド上に置いたDVRサービス」となるか)に対して、大手3局(NBC、ABC、CBS)が延々と裁判を続けているのも、そうした“敷居の高さ”を示す例――コンテンツ保有者にとってライブ放送が死守すべきものあることを示す例といえるかもしれない。また、それ以外に

(5)自前のパイプ(通信放送インフラ)を確保する

というのもあるにはある――Googleの「Google Fiber」実験がまさにそれだが、周知の通り膨大なコストがかかるといった難点以外にも、米国以外にまでスケールさせられるか、といった課題もすぐに思い浮かぶ。

 ここまでの話を整理しておくと。

  • 米国ではここにきて「通信と放送の融合」が一気に現実化しつつある。同時にパイプ(配信インフラ)を握る事業者の寡占化も進もうとしている
  • 消費者に提供されるサービスのバンドル化がさらに進む可能性が高まっている(有料テレビ、ブロードバンド接続、携帯通信のバンドル提供)
  • 放送分野では、CATV/衛星テレビとウェブサービス(OTT)との違いが意味を失い始めている。一頃騒がれた“コードカッター”が主流となる気配は薄れている
  • コンテンツ保有者/ウェブサービス提供者、インフラ事業者、デバイスメーカーという三者のバランスが変化しつつある
  • 寡占化が進むインフラ事業者――とくにComcast/TWC、AT&T/DirecTV――の影響力が拡大すると、ブロードバンド側ではウェブサービス提供者に対して負担を求める圧力がさらに高まる(「Fastlane」「paid priotization」などとされる「有料高速車線」の問題)。また映像コンテンツ側でもテレビ局(メディア企業)への交渉力も拡大する。そのため(Intel Mediaのような)OTTサービスへの番組提供もハードルが高くなる
  • iPhoneでは、iTunesの持つコンテンツやアプリ(ウェブサービス)への影響力をテコに旨味の大きい事業モデルを実現できたAppleだが、テレビ(映像配信)の分野では、iPhoneのそれに相当するような事業モデル(携帯通信事業者からも金を取るという形)を構築できる余地がほとんどない
  • 有料テレビ市場は飽和している(約1億世帯がすでに加入)ので、「Appleのテレビが使いたいから」という理由で特定のCATV/電話会社のサービスに加入する、といった消費者の選択はあまり考えられない。またそもそも有料テレビ/ブロードバンドの選択肢がひとつしかない場合も少なくない
  • Appleにとっては、既存のものよりも高価なSTBをつくって、CATV/電話会社経由で販売するという手もなくはないが、消費者が付加価値を認めて対価を支払うかどうかは疑問(かつての「Google TV」失敗の例)
  • 映像コンテンツやウェブサービスのゲートウェイ(料金所)としてCATV/電話会社の影響力が高まるのに伴い、これらの企業に対する端末メーカーの相対的な影響力が後退、減少する可能性もある

 最後の点はまだあくまで「今後の注目点」に過ぎない。また、スマートフォンのコモディティ化、あるいは高価格帯製品の成長鈍化といった流れが、端末メーカーと通信事業者との相対的な力関係にどう影響するのか、といった点も気になるが、話があまりにややこしくなりそうなので別の機会とする。

ESPN獲得という“一発逆転パス”の可能性

 いずれにしても、Walter Isaacsonが想像するようにAppleがまだテレビの分野を諦めていないとすれば、なんらかの新しいサービスを始める、あるいは新製品を投入するにあたって、それなりにインパクトのある交渉材料を用意しないといけない(そうしたものもなしに、ただ「使い勝手のいいインターフェースを用意するから、代わりに分け前をよこせ」といってもCATV/電話会社から門前払いを食うのは想像に難くない)。

 そんな材料として、おそらく最も強力なのは、Disney傘下のスポーツ放送局であるESPNだろう。ESPNは、アメリカンフットボールのNFLやバスケットボールのNBAをはじめ、いろんなスポーツの放映権を押さえているので、DirecTVの「NFL Sunday Ticket」などとは比べものにならないくらいの影響力がある。

 もっとも、あまりに高い買い物になるのが目に見えているせいか、まだそんなこと(買収可能性)を記した例というのは目にしたことがないが、それでも有料テレビ契約世帯への浸透率が9割5分、しかも1チャネルあたりの契約料(有料テレビ事業者が支払う仕入れ値。消費者にほぼそのまま転化される)も並外れて高いESPNがなくなると、ほとんどのCATV/電話会社が困ることは想像に難くない。

 そういう“強力なレバレッジ”となり得るESPNも、一方ではチャネルのバンドル(あまり観ないチャネルまで抱き合わせにする)や(特に大学の)スポーツ放送の独占などで何かと風当たりが強いのも事実。だから、もし買収となれば(買い主が)「ダークサイドに落ちた」といわれることもほぼ間違いなさそう。

 現時点の主要各社の時価総額は次のような感じ。

主要各社時価総額(5月22日時点、単位:10億ドル)
Apple(AAPL)522.26
Google(GOOG)360.91
Verizon(VZ)203.62
AT&T(T)183.23
Comcast(CMCSA)133.50
Time Warner Cable(TWC)38.92
DirecTV(DTV)42.34
Disney(DIS)142.34
21st Century Fox(FOXA)77.97
Time Warner(TWX)61.80

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