前編では、Appleが買おうとしているとされるBeatsという会社について、先進的なテクノロジやウェブサービスといった視点からはあまり面白味が感じられない買い物かもしれないが、(Appleがしばらく前から重点をシフトさせつつあるように見える)“高級ライフスタイルブランド”としては決して悪い買い物ではないのではないか、といったことを書いた。
後編では、もう少し違った角度から見てみる。
「iWatch」の“発射台”としてのBeats
[Powerbeats by Dr Dre featuring LeBron James and Dr. Dre Extended Version]
(Dr. DreとLeBron Jamesが揃って登場するBeatsのCM)
前編でも触れたThe Verge記事には、Appleが(やはり開発中の噂が流れている腕時計型端末)「iWatch」の発射台としてBeats by Dr. Dreのブランドを使おうとしているのではないか、という見方が記されている。
iWatchをリリースするにあたって、「何でAppleブランドではダメで、Beatsならいいのか(うまくいく可能性が高いのか)」という点への明確な説明は見当たらないが、これの前提となっているのはPiper Jaffreyが米国の10代の若者を対象にした調査――「iWatchが(350ドルという値段で)出たとして、買うかどうか」と訊ねられた回答者のうち、「購入するかもしれない」と答えた人の割合がわずか17%に過ぎなかった、という結果だろう。
「ウェアラブル端末(という新しい分野の)製品を成功させるためには、優れた技術や素晴らしい製造プロセスや流通網だけでは不十分」とするThe Verge記事の筆者は、iWatchが「ファッショナブルなラグジュアリー製品」と見なされなくてはならないと指摘し、そのためには影響力のある著名人に身に付けてもらう必要がある、と書いている。
そして、Beatsには製品をエンドースしてくれる有名人がすでにたくさんいるとして、あとは「Dr. DreとJimmy Iovineが実際に着用するだけでいい(そうすれば自然とハリウッドやプロスポーツ界でユーザーが拡がっていく)」などとする説を披露している。
この記事の筆者は、これから正式発売となる(はずの)「Google Glass」について、「あまりにオタクっぽすぎるイメージが先に広まってしまったので、普及には苦戦するのではないか」などとも記している。
Samsungの「Galaxy Gear」やNikeの「FuelBand」といった手首につけるウェアラブル端末がまだあまり売れていない、売れたとしても比較的短期間で飽きられてしまう、という話を以前に記した(「『夜明け前』のウェアラブル端末--キラーアプリの方向性を考えてみる」)。
前者が「技術的に可能だから、ひとまず出してみました」というアーリーアダプター向け製品の代表だとすれば、後者は特定の用途に特化した狭いセグメントを狙ったもの(スポーツ愛好者向け)の代表ということになろう。The Verge記者の指摘で面白いのは、そういう認知のされ方をした新しい製品が、はたして普通の若者にも受け入れられるか、強い支持を得られるか、と問うている点だろう。
そのことで頭に浮かぶのはNikeのバスケットボールシューズの例で、もしバスケのシューズが(サッカーや野球のスパイクのように)競技者や愛好家だけのものであったとしたら、現在のような大きなビジネスにはなってはいなかったのではないか、という感じもする。
2月のForbes記事によると、2013年米国だけで年商45億ドル規模に成長した、この市場でNikeのシェアは92%だったというから、金額に直すと41億ドルくらい。同社全体の年間売上が約253億ドル(Nikeブランドだけだと230億ドル)で、そのうち米国市場の売上が104億ドル(2013年に初めて100億ドルを突破したらしい)となっているので、このバスケットボールシューズからの売り上げは約4割ということになる。
ウェアラブル端末としてのヘッドフォン
[Beats by Dr. Dre Presents: LeBron James Gifts the Miami Heat Powerbeats]
(Miami Heatのチームメイト全員にBeats by Dr. Dreのヘッドフォンを配るLeBron James)
前述のThe Verge記事にはなぜだか言及がないが、ヘッドフォン/イヤフォン自体が十分ウェアラブル端末となり得るという点は、すでに一部で認識されている事柄だろう。Appleがイヤフォンにセンサを埋め込むことをかなり前から視野に入れており,そのための特許を取得しているという話も何度か流れていた。また以前の記事(「アップルの次の“ブロックバスター”製品--そのビジネスモデルを考える」)で記した通り、Appleが「Healthbook」と称する健康フィットネス関連のアプリ/プラットフォームを開発しているという説も出ている。