米Microsoftと米Salesforce.comが米国時間5月29日、戦略的提携を結んだと発表した。この動きから、特にMicrosoftの思惑について探ってみたい。
両CEOが「ユーザーの生産性向上」を強調
Salesforce.comの日本法人セールスフォース・ドットコムが公表した米国での発表概要によると、今回の両社の提携によって、Salesforce.comのCRMアプリケーションおよびプラットフォームとMicrosoft OfficeおよびWindowsが統合され、ユーザーの生産性向上に貢献することができるとしている。
両社の提携について、MicrosoftのSatya Nadella(サティア・ナデラ)最高経営責任者(CEO)は「Salesforce.comが提供する顧客への知見、Microsoftが提供するOffice 365やAzureによるクラウドソリューション、Windowsのモバイル性のすべてが統合されることで、ユーザーは生産性向上とともにより多くのことができるようになる」と説明。Salesforce.com CEOのMarc Benioff氏も「Microsoftとともにユーザーの生産性向上を実現する“橋”を構築していきたい」と、両氏とも「ユーザーの生産性向上」を強調した。
具体的な提携内容については関連記事を参照いただくとして、ここでは特にMicrosoftの思惑について探ってみたい。
Microsoftが着々と進める「大衆食堂」戦略
Microsoftにとって今回のSalesforce.comとの提携は、クラウドビジネスにおいてまた1社強力なパートナーを得た格好となる。また1社と言ったが、筆者の目には、Microsoftがクラウドにおけるグローバルメジャープレーヤーと戦略的提携を結んだのは今回が第3弾と映る。
第1弾は、2013年夏に発表した米Oracleとの提携だ。その内容は、端的に言えばMicrosoftのクラウドプラットフォームであるAzure上でOracle製品を利用できるようにしたものだ。そして第2弾は、先月に発表した独SAPとの提携だ。こちらもAzure上でSAP製品を利用できるようにするのが柱となっている。
MicrosoftとSAPの提携については、前回の本コラム「自前クラウドにこだわらないSAPの思惑」で解説しているので参照いただきたいが、その前回コラムで紹介したクラウドビジネスをめぐる例え話を再度用いて、Microsoftの思惑に迫ってみたい。
その例え話とは、クラウドサービスを「食堂」、その中でも低価格なサービスを「大衆食堂」、クラウド上で扱う製品やサービスを「食材」に置き換えたものだ。
そう考えると、いま大衆食堂のグローバル展開で激しい戦いを繰り広げているのが、米Amazon Web Services (AWS)、米Google、そしてMicrosoftの3社だ。そのうちの1社であるMicrosoftと戦略的提携を結んだOracleとSAPは、それぞれに得意とする領域の食堂と食材の提供に注力する一方で、大衆食堂の商売についてはMicrosoftとの提携を生かそうとしているのではないかとも受け取れる。
Salesforce.comはその点、自ら運営する食堂にMicrosoftの食材を取り入れた格好だが、Microsoftが運営する大衆食堂へも相互乗り入れする形で、OracleやSAPと同じく自らは大衆食堂を手掛けなくて済むようにしたとも受け取れる。
こうした形は、打倒AWSやGoogleに向けて大衆食堂を大きく広げたいMicrosoftにとってまさしく思惑通りなのではないか。Oracle、SAPに続いて今回Salesforce.comと戦略的提携を結んだことで、大衆食堂に例えたMicrosoftのクラウドビジネス戦略が一層鮮明に浮かび上がってきたといえそうだ。