ワシントンDCは公共駐車場をLED電球に取り替える際、電球を購入するのではなく、「LED電球に取り替えたことで削減された電力料金から一定の金額をPhilipsに10年間支払う」との契約をした。これによりワシントン州は、初期投資が必要なく10年間の電力消費削減も実現できた。一方Philipsは、10年間のサービス提供で継続的に利益を得ることができたのである。
またHeppelmann氏は、スマートコネクテッドプロダクトが提供する新機能として「監視(モニタリング)」「制御(コントロール)」「最適化」「自動化」を挙げ、新たなビジネスの可能性を説いた。
例えばモニタリングでは、太陽光などによる自家発電装置を可視化することで、ビルや自宅などの発電状況と電力消費を把握することが可能だ。コントロールでは、空調機器やテレビなどを遠隔操作が可能になる。

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こうした機能を応用し、可視化することで最適化を図る“スマートハウス”などは、欧米だけでなく日本でも広がりを見せており、今後の成長市場として注目されている。さらにスマートコネクテッドプロダクト同士で接続性を保つことができれば、相互制御も可能になるというわけだ。
「製品を所有することは、故障などのリスクを顧客が所有することだ。しかし、スマートコネクテッドプロダクトが増加すれば、顧客がリスクを負う必要がなくなる。さらに製造業も、製品を販売した時点で利益を得ていたビジネスモデルから、サービスを販売することで、長期的な顧客との関係性が構築できるビジネスモデルにシフトできる」(Heppelmann氏)
ThingWorxの買収で完成したポートフォリオ
今回、同社がスマートコネクテッドプロダクトを全面的に強調する背景には、米ThingWorxの買収がある。PTCは、IoT向けアプリケーション開発運用プラットフォームを提供するThingWorxを買収した。組織的にThingWorxは、PTCの子会社として運営されているが、PTCのサービスライフサイクル管理(SLM)や製品ライフサイクル管理(PLM)などのポートフォリオを補完する形でも組み込まれる。
Heppelmann氏は、「SLMやPLMにThingWorxが加わったことで(ポートフォリオは)完璧になった。どのように製品が利用されているか理解できれば、課題解決のスピードは速くなる。製品のライフサイクルを生産から廃棄までとした場合、顧客の手元にある間は、われわれは状況を把握できなかった。しかしThingWorxの買収で、包括的なサービスが提供できるようになった。こうした一貫性のあるサービスを提供できるのがわれわれの強みだ」と、そのメリットを強調した。
今回の基調講演は、そのほとんどがIoTに関する内容だ。参加者の関心の高さもさることながら、今後、PTCが製造業でのIoTでイニシアチブを取るとの姿勢が鮮明に打ち出された講演となった。

米Traneでサービス&カスタマーケア担当バイスプレジデントを務めるDane Taival氏
ユーザー事例の紹介でも、IoTでビジネスモデルを変革した米国Traneに多くの参加者が関心を寄せていた。
同社はビルの空調機器や空調設備管理サービスを展開している。各空調機器にセンサを搭載し、室内温度計や電力消費などのデータをクラウド上のデータウェアハウス(DWH)で収集、分析し、ビルを快適な状態に保つ“快適な空間”を提供している。顧客が保守やメンテナンスに煩わされることはない。すでに、同社の売上高の50%はサービス部門が占めるという。
Traneでサービス&カスタマーケア担当バイスプレジデントを務めるDane Taival氏は「収益性を考えれば、サービスの比率をさらに上げる必要がある。補償やメンテナンスを充実させ、ビジネスモデルを“ソリューションを提供する”というアプローチにしていく」と語っている。

Traneの空調設備管理サービスアプローチ