日本マイクロソフトとYRPユビキタス・ネットワーキング研究所(YRP UNL)は7月7日、オープンデータやビッグデータ、“モノのインターネット(Internet of Things:IoT)”の分野で提携すると発表した。データを2次利用しやすい環境を構築し、多くの人がその恩恵を得られる社会づくりへの貢献を目指すという。
日本マイクロソフト パブリックセクター担当執行役常務の織田浩義氏は「マイクロソフトでは、2013年から“CityNext”として都市が抱える課題解決に取り組んでおり、バルセロナ市やロンドン市交通局、横浜市などでビッグデータやオープンデータを活用することで成果を挙げている。今回の提携は、これらの取り組みをベースとして、さらに進化させた」と提携の背景を説明した。
日本マイクロソフト パブリックセクター担当執行役常務 織田浩義氏
YRPユビキタス・ネットワーキング研究所所長 坂村健氏
織田氏はまた「より多くの公共機関からオープンデータが提供されるように支援すること、標準的な技術を採用することでさまざまな提供主体のデータを横断的な活用を可能とする。加えて、さまざまな交通事業者のデータを一元的に提供することでデータ活用を推進していく。旅行者にもわかりやすい交通情報サービスの開発を促進する。他言語でのサービス提供で外国人観光客向けサービス開発を支援することで、究極のおもてなしアプリを開発できる。T-Engineフォーラムと連携し、IoT技術の標準化や普及に向けた活動を行う」と狙いを話した。
YRP UNL所長の坂村健氏(東京大学大学院情報学環教授)は、「今回の提携でYRP UNLは、オープンデータプラットフォームやユビキタス/IoTプラットフォームを提供。それに対して、日本マイクロソフトは“Microsoft Azure”によるクラウドサービスやアプリケーション開発環境を提供する。一言で言えば、Azureのプラットフォーム層の中に(IoTアーキテクチャの)“uID 2.0”を組み込むほか、サービス層に“ココシル”“ドコシル”というサービスも組み込むことになる。TRON陣営とマイクロソフトが手を組むことで、世界初の新たな情報の仕組みを提供していきたい」を提携内容を解説した。
「公共交通オープンデータ研究会の活動などを通じて、オープンデータの活用を提案してきたが、ここにきて、どうやって多くの人に活用してもらえるかといったことが具体化する時期に入ってきた。しかし、オープンになってもそれを使ってもらえなくては意味がない。日本マイクロソフトに注目してもらったことで、活用できる環境が整うことになる」(坂村氏)
機械翻訳と組み合わせて究極の“おもてなし”
具体的には、オープンデータやビッグデータの活用推進として「政府/自治体のオープンデータ提供基盤構築事業の実施」「公共交通オープンデータ事業の支援」に取り組む。
政府/自治体のオープンデータ提供基盤構築事業では、総務省の情報流通連携基盤や経済産業省の共通語彙基盤などの業界の標準技術などを活用した政府や自治体のオープンデータ提供基盤の構築事業を“uIDアーキテクチャ2.0”とAzureによるクラウドプラットフォームの提供などで支援する。uIDアーキテクチャ2.0は、ucodeが付与された対象の属性や意味を表す情報をデータベースに格納し、ucodeをキーにして、属性や意味情報をデータベースから取り出せる仕組み。
公共交通オープンデータ事業の支援では、公共交通オープンデータ研究会にICT会員として参画し、公共交通事業者のオープンデータの情報プラットフォームを提供するとともに、PCやタブレット、スマートフォン向け公共交通情報提供アプリの開発を支援する。
IoT分野での技術協力と共同事業では「高度位置情報サービス事業」と「IoT技術の標準化や普及に向けた活動」を行う。
高度位置情報サービス事業としては、YRP UNLが開発、推進しているユーザーの所在地の地図、クチコミ情報などを提供する「ココシル」と路線バスや鉄道の時刻表、リアルタイムの運行情報を表示する「ドコシル」にマイクロソフトの機械翻訳などの技術を組み合わせる。
これにより、海外からの観光客がスマートフォンなどで飲食店を検索すると、位置情報をもとに最寄りの飲食店情報を43カ国語でリアルタイムに翻訳。地域振興や観光、ショッピングの利用者増加などに貢献できるサービスとして提供する。
日本マイクロソフト 業務執行役員 CTO 加治佐俊一氏
「事前に情報を翻訳して提供することも大切だが、運行情報や渋滞情報、事故、災害などの緊急事態が起こった場合などにはリアルタイムで翻訳されることが重要になる。こうした環境が提供できるようになる」(日本マイクロソフト 業務執行役員 最高技術責任者=CTO 加治佐俊一氏)と具体的なメリットを示す。
IoT技術の標準化や普及に向けた活動では、組込機器とクラウドサービス、スマートフォンなどの多様なデバイスの連携を促すため、T-Engineフォーラムと連携して、IoT分野の新たな技術標準の普及に向けた活動を行う。「将来的には、こうしたサービスが日本の特定のものとして利用されるだけでなく、グローバルにも利用されることを期待している」(加治佐氏)
ucodeマーカー
坂村氏は「YRP UNLは今から約10年前に設立したIoTだけに特化した唯一の研究所だと言える。YPR UNLでは、モノや場所などを識別する世界共通のIoT向けネットワーク解決型汎用識別番号である、国際標準のucodeで現実社会のモノを区別し、クラウドを結びつける実験を行ってきた。すでに、銀座を中心に数千カ所にucodeマーカーを設置するといった実験を行ってきた経緯がある。ucodeは火災報知器や競走馬、電子地図など幅広い分野に活用されており、日本国内だけで数千万個が活用されている。2~3mの誤差で場所を特定し、これをクラウドで管理でき、サービスを提供できる」とYRP UNLの実績を解説した。