「Apple Pay」関連の報道で、このところ注目度が上がってきた感のあるBank Innovationというブログがある。そのBank Innovationで、先日あったeBayによるPayPal分社化の発表についてちょっと面白い話が紹介されていた。
eBayもPayPalも、日本では知名度がいまひとつといった感じがあるが、米国ではオンラインオークション最大手の親会社とネット決済関連トップ(最近ではリアルへの進出中)という組み合わせだから、この発表にもそれなりに大きな注目が集まっていた。たとえばTechmemeにもこんな感じで関連記事が集まっていた。
PayPalはいわゆる「PayPalマフィア」の連中――Elon Musk(Tesla MotorsやSpaceXなど)、Peter Thiel(Founders FundやPalantirほか)やMax Levchin(Slideほか)、Reid Hoffman(LinkedIn)、David O. Sacks(Yammer)、Jeremy Stoppelman(Yelp)など――のおかげで事業とは別のところでの特別な存在感も感じられる。
この発表が“大きな話題”になった理由のひとつは、eBayの下した、この経営判断がちょっと意外なものと感じられたため。同社経営陣は今年の春先までCarl Ichanから「PayPalを切り離せ」と圧力をかけられていて、なんとかそれに耐え抜いてIchanと“手打ち”に持ち込んでいた。
Ichanが分社化を要求したのは、事業の価値評価の点で「成長著しいPayPalの足を成熟したeBayが引っ張っている」(それぞれを独立させた方が全体として企業価値が高まる)という理由から。それに対して、eBay経営陣がこの提案を拒んでいた理由は、簡単にいうと「eBayとPayPalが一緒にいた方が何かといい。実際に相互の依存率も高い」などというものだった。
Ichan――DellやAppleとの件でもお馴染みの「アクティビストシェアホルダー(物言う投資家)」との大変な委任状争奪戦などを経て、せっかく守り抜いた状態を半年もしないうちにどうしてまた手放すことにしたのか。意外というのは、つまりそういうことだ。
発表直後に目にした関連のニュースのなかには、この疑問に対する答えもしくはヒントが(明示的に)書かれたものが見つからなかった。普通、分社化などというと、何らかのわかりやすい理由がついている。将来性のある映像関連事業(テレビ・映画部門)と先行きがぱっとしない活字情報部門を切り分けたFoxの動きがいい例かもしれない。
Ichanの提案を蹴ったeBayはそれとは反対向きの主張――ふたつの異なる事業が一緒にあった方が事業価値が高いという考えを押し通していたわけだから、ここに来ての180度の方向転換はまさに自己矛盾…。当初のニュースを目にした限りでは、そんなぼんやりした疑問も浮かんでいた。
このぼんやりした疑問に対する明解な答えが出ているのが、Bank Innovationの「PayPal Spin Off Is All About Apple Pay」という記事で、「Apple Pay関連で、Appleを敵に回してしまったPayPalの将来性にeBay経営陣が見切りをつけ、早めに同事業を売り払う(上場させる)ことで利益を確保しようということになった」などという説明がある。
この記事には、PayPalの事業について「現在のユーザー数は約1億5200万人」「売上規模は年間72億ドル」「過去数四半期続けて2桁成長」「今年第2四半期には前年比19%の売上増加」といった数字が並んでいる。つまり、そういう優良事業の先行きがApple Payの発表でにわかに怪しくなってきた、eBayの経営陣がそう判断した、ということだろう。
この分野の最大手であるPayPalがなぜAppleと手を組めなかったか。「The Real Reason PayPal Isn't an Apple Pay Preferred Partner」という、やはりBank Innovationの別の記事には、そのあたりの経緯に関する興味深い話も出ている。
この記事によると、決済分野の新参者になるAppleは当初PayPalとも組むつもりでプロジェクト初期から同社と話を進めていた。いかにAppleと言えども「業界最大手を無視しては話が進まない」と考えていたようだ。