虫を食べる社会
かつて奄美大島の近くにある宝島という島へ、米だけを持ってキャンプに行ったことがある。米以外の食料は、魚を釣ったり、島に自生するアダンという木の果実をもいで食べたりした。それだけでは足りないので、バッタを捕まえて炒って食べるのだ。塩を振ると小エビのような味わいでなかなかうまいのだが、炒り方が足りないと、口の中で内臓がじゅわっと弾けてオェーとなる。
The Economist誌によれば、この昆虫食というのが、人口増と食糧難に直面する世界にとって、極めて有望なプロテイン源になるという。なぜなら、昆虫は栄養価が高く(プロテイン含有量は牛肉の3倍)、かつ育てるのが簡単で、しかも二酸化炭素の排出量が少ない。現在も世界で20億人ほどが昆虫を食べる習慣を持っているということであるが、最近では健康やサステナビリティという観点から、欧米のレストランでも昆虫を使った料理が人気を博しつつあるのだとか。
しかしながら、昆虫はこれまで主要な食料として、当局による調査や規制がしっかりと行われて来なかった領域であるため、何を食べて良いのか、どういう基準を課せば安全が担保されるのかなどまだまだ未整備の部分が多い。ようやく今年になって、FAO(国連食糧農業機関)がその調査に乗り出したところである。
モノを買わない社会
そして、もう一つこれからの社会に影響を与える動きについての議論がイギリスで本格化した。このコラムでも何回か取り上げてきたシェアリングエコノミーである。英政府は、シェアリングエコノミーが経済に与える影響が大きいとの予測に基づき、同国がシェアリングエコノミーに関し、世界の中心的な役割を担うべきだとしている。
英政府は、今年の9月にシェアリングエコノミーに関する調査プロジェクトを立ち上げた。その趣意書の中で、自家用車や休暇目的での宿泊施設の利用といった領域においては、2025年までにシェアリングエコノミーのシェアが50%になるだろうと予測されている。つまり、そのころまでには2人に1人は、自家用車は持たずに他の人や事業者が提供する車を借り、休暇で旅行をするときもホテルではなく、個人から宿泊施設の提供を受けるであろうと。
かなり大胆な見通しであるが、英政府はこうした動きに先立って、その利用者や既存事業者に対するインパクトを分析し、必要な規制を整備しておきたいという意向があるようだ。面白いのは、その趣意書の中で、“Business and Enterprise”担当大臣であるMatthew Hancock氏が次のように述べていることだ(訳は筆者)。
There's huge economic potential for the sharing economy and I want to make sure that the UK is front and centre of that, competing with San Francisco to be the home of these young tech start-ups.
シェアリングエコノミーの経済的な潜在力は極めて大きい。故に、イギリスがその先頭に立ち、さらにはその中心的な役割を果たせるようにしたい。こうした領域の新興のテクノロジスタートアップがサンフランシスコではなくイギリスを選ぶようにしたいのだ。
一方、この英政府のプロジェクトに関し、中道左派の英The Guardian紙は、調査がビジネス的なインパクトの分析に偏っており、シェアリングエコノミーの中でサービスの提供者になるであろう労働者の権利に関する議論が欠けていると指摘する。なるほど、調査趣意書を見ると、確かに英政府は、シェアリングエコノミーを推進することに目線が行き過ぎて、サービスの提供者を守るという観点が抜けているようである。
サステナブルな社会
話は昆虫に戻るが、既にタイには2万ものコオロギ畑があるのだという。The Economist誌は、昆虫もそのまま食べるのは厳しいかもしれないが、粉末にしてプロテインバーのような形にすれば、健康で環境に優しい食品として十分に受け入れられるのではないかと予測している。
イギリスのシェアリングエコノミーに関する調査については、The Guardian紙が指摘するようにビジネスに関する議論が多い。しかし、シェアリングエコノミーのもう一つの側面であるサステナビリティに関するポジティブなインパクトについても盛り込んだら良いのではないかと、バッタの味を思い出しながら感じた次第である。