「10年後、IT産業はどんな姿になっているだろう」
日本のIT企業は、請負型システム開発による収益モデルを守ろうとする。だが、取り巻く環境変化やテクノロジの急速な進化がビジネスモデルの変革を迫る。事実、メインフレームからオープンシステム、インターネット、クラウドへとコンピューティング環境の変化によって、リーダーは移り変わった。
次世代テクノロジの開発を軽視し、欧米ITベンダーの製品やサービスに頼るビジネスを展開する日本のIT企業に、どんな未来が待っているだろう。
岐路に立つIT企業
2014年9月下旬、野村ホールディングスと野村証券が日本IBMに対して、システム開発に関する損害賠償を求める訴訟を起こしていることが報道された。詳細は分らないが、「言った」「言わない」といった顧客企業とIT企業の間のトラブルは後を絶たない。
システム開発を請け負う多くのIT企業にとって、このような不採算プロジェクトの発生は利益を大きく押し下げている。業界最大手のNTTデータでさえ、2013年度に大規模な不採算案件が6件発生し、300億円近い損失を計上した。不採算なプロジェクトが発生するたびに、IT企業はプロジェクトの徹底管理など撲滅運動に取り組む。確かに一時的な効果はあるが、数年後に再び不採算プロジェクトが噴出する。この繰り返しだ。
「赤字覚悟で未経験のプロジェクトに挑戦したのは将来の成長のためだ」。IT企業の経営者はそんなことを言いそうだが、顧客が何を目的に、どんなIT化を考えているのかを理解せずに企画、設計、開発に入れば、どんな結末になるのかは分かること。顧客への聞き取りやプロジェクト管理力の不足が根底にある。
2012年に開発を中止した特許庁の基幹システムも、こうしたことが原因の1つと言われている。開発に取り組んだ東芝ソリューションとアクセンチュアは開発中止で、開発費用の全額(利子をつけて約56億円)を返納したという。売上高1000億円規模の受託ソフト開発会社の営業利益に相当する額だ。
システム開発事業に詳しいコンサルタントは「顧客企業がIT企業にシステム開発を全面的に任すことに問題がある」と指摘する。特に、「こんな感じで作ってくれ」という曖昧な仕様でIT企業に丸投げすること――要求仕様を作成できる人材がいないからだ。そこに、IT業界の多重下請け構造が問題を大きくさせている。
なのに、請け負うIT企業は、顧客企業から言われた通りのシステムを作り上げようとする。結果、発注した側は「期待したものと違う」となり、修正、追加を依頼する。この手戻りがコスト高を招き、開発を長期化させている。