本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉をいくつか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、ファイア・アイの名和利男 最高技術責任者と、日本IBMのVivek Mahajan 専務執行役員の発言を紹介する。
「サイバー攻撃は安全保障の問題としてとらえるべきである」 (ファイア・アイ 名和利男 最高技術責任者)
ファイア・アイ 名和利男 最高技術責任者
米FireEyeの日本法人であるファイア・アイが先頃、グローバルで繰り広げられている標的型サイバー攻撃に関する記者説明会を開いた。会見では、11月1日付けで同社の最高技術責任者(CTO)に就任した名和氏が、ロシア政府から支援を受けたサイバースパイ活動の可能性について同社の調査結果を説明した。冒頭の発言はその中で、サイバー攻撃に対する政府機関や企業のとらえ方について持論を述べたものである。
名和氏は航空自衛隊出身で、その後、一般社団法人JPCERTコーディネーションセンターやサイバーディフェンス研究所などで政府機関や民間企業のサイバーセキュリティ対策支援を担当。国の安全保障分野と情報セキュリティの双方に通じた専門家である。
名和氏は会見の冒頭でファイア・アイのCTOに就任したことについて、「最近のサイバー攻撃は一段と高度化し、対応がますます難しくなってきている。防御する側の取り組みをもっと強化しないと、大変な事態に陥りかねない。その強い問題意識のもと、仕事に取り組んでいきたい」との決意を語った。
ロシア政府から支援を受けたサイバースパイ活動の可能性についての調査結果では、同社が「APT28」と呼ぶ脅威グループがグルジアなどの東欧諸国、北大西洋条約機構(NATO)などの安全保障機関を対象に、マルウェアを使ったデータの窃盗を行っていたと指摘。その根拠についても「マルウェアがロシアで作成されたことを示唆する分析結果が多く見られた」と説明した。
さらに名和氏は、「APT28による攻撃は、経済的利得のための情報窃取を目的としたものではなく、旧来の諜報活動に酷似したものだ」とし、「こうしたサイバー攻撃は日本にも影響が及ぶと認識するべきだ」と警鐘を鳴らした。
では、どう対処すればよいのか。同氏は「攻撃が表面化しているものだけでなく、表面化していないものも素早く的確に検知できる態勢作りが急がれる。そのためにもこれまで以上に安全保障の観点から官民の連携を強化し、受け身ではなく積極的に検知していく姿勢が求められる」と強調した。
ちなみに、ファイア・アイは中国や北朝鮮によるサイバー攻撃についても調査・分析を行っている。そこで筆者は会見の質疑応答で、サイバー攻撃におけるロシアや中国、北朝鮮の技術力はそんなに高いものなのか、という素朴な疑問を投げかけてみた。すると名和氏は次のように答えた。
「組織的な活動とともに有能な人材も多く、技術力の向上に相当力を入れていると見るべきだ。しかも攻撃の経験が豊富なことから、実戦で技術を磨いている。そう考えると、日本は攻撃の経験に乏しいので防御技術も受け身になりがちだ。そうした認識のもと、これからのサイバーセキュリティ対策に取り組んでいく必要がある」